研究課題/領域番号 |
24790417
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
高橋 栄造 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (70379733)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | Aeromonas / メタロプロテアーゼ / セリンプロテアーゼ |
研究概要 |
食中毒の原因菌としてしばしば分離されるアエロモナス(あるいはエロモナス)は下痢症だけでなく、筋壊死や蜂巣炎といった軟部組織の壊死性疾患や敗血症の起因菌としても報告される。これら重篤症状は本菌の産生する菌体外毒素が関与すると考えられ、これまでに本菌の産生する菌体外プロテアーゼであるセリンプロテアーゼ、メタロプロテアーゼの解析を進めてきた。 近年、一部のAeromonas hydrophilaは生体を構成する不溶性蛋白質の一つであるエラスチンを分解し、その活性にはメタロプロテアーゼが関与する事が分かった。このメタロプロテーゼは活性体領域とC末端ドメインからなる中間体が菌体外へ産生された後、プロセシングされて活性体に変換されるが、エラスチン分解にはC末端ドメインを持つ中間体が関連する事が示唆された。また、エラスチン分解性株と非分解性株の産生するメタロプロテアーゼでは、C末端ドメインに多くのアミノ酸置換が存在した事から、エラスチン分解には特有のC末端ドメインが重要な機能を持つのではないかと推測している。そこで本研究では、メタロプロテアーゼのエラスチン分解におけるC末端ドメインの機能を明らかとする事を目的とする。 また、A. trotaのプロテアーゼに関する研究を行った結果、セリンプロテアーゼを25℃では産生するが、37℃では産生しない、培養温度依存的な発現調節を受ける事を見いだした。A. sobriaのセリンプロテアーゼは哺乳類のプロテアーゼであるフーリンと立体構造および基質特異性に類似性が見られる興味深いプロテアーゼである。そこで本研究では培養温度依存的な発現調節を受けるA. trotaのセリンプロテアーゼの性状解析を行い、A. sobria セリンプロテアーゼや真核生物プロテアーゼとの相関性を明らかにすることを目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではA. hydrophilaの産生するメタロプロテアーゼ、特に活性体領域とC末端ドメインで構成される中間体のエラスチン分解性について解析する事を目的とする。これまでに、A. hydrphila野生株の培養上清から中間体メタロプロテアーゼの精製を試みたが、精製過程において自己プロセシングが生じるために精製ができない事ことから、本研究では本遺伝子を大腸菌に形質転換し、大量発現系の構築を試みた。しかし、作製した形質転換株はメタロプロテアーゼ活性体を培養上清に産生するが、野生株とは異なり、中間体は産生しなかった。また、野生株では菌体内にメタロプロテアーゼは検出されないが、大腸菌形質転換株では菌体内にメタロプロテアーゼ活性体が滞留している事が分かった。この大腸菌形質転換株でも安定的にメタロプロテアーゼ中間体を産生するため、部位特異的変異導入法を用いて、いくつかのアミノ酸残基でアラニン置換体を作製したが、それら形質転換株ではメタロプロテアーゼ活性体の産生も見られなくなった。残念ながらメタロプロテアーゼ中間体の精製には至っていない。 また、A. trotaセリンプロテアーゼに関する研究では、これまでに本遺伝子をプラスミドに単離し、遺伝子の塩基配列を決定した。しかし、この遺伝子を含むプラスミドを大腸菌に形質転換した株ではいずれの培養温度でもセリンプロテアーゼの産生はほとんど見られず、野生株で観察される培養温度依存的な発現は見られなかった。そこで、野生株を用いて、セリンプロテアーゼ遺伝子が各培養温度で転写されているかどうかを調べた結果、本遺伝子転写産物は25℃培養では顕著に検出されるのに対し、37℃培養ではほとんど検出されなかった。以上の結果から、培養温度依存的なセリンプロテアーゼ産生調節は遺伝子転写での制御が生じている事が明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
A. hydrophilaメタロプロテアーゼ中間体の性状解析では、引き続き変異導入法を行い、メタロプロテアーゼ中間体を安定的に産生する形質転換株の作製を試みる。それを用いてエラスチンとの相互作用の評価を試みる。しかし、中間体の産生ができない場合には、C末端ドメインのみを発現プロモーター下に遺伝子挿入し、C末端ドメインを産生する形質転換株からC末端ドメインを精製し、そのC末端ドメインとエラスチンとの相互作用を評価する。 A. trotaセリンプロテアーゼの性状解析を行うために、本蛋白質の精製を試みる。これまでの結果から、大腸菌形質転換株では本蛋白質は産生されないため、野生株の培養上清からセリンプロテアーゼの精製を試みる。また、これまでの25℃培養よりもA. trotaセリンプロテアーゼの産生量を増加させる培養条件を検討する。セリンプロテアーゼの精製方法はA. sobriaセリンプロテアーゼの精製を用いて行う。その後、精製セリンプロテアーゼを用いた性状解析を行う。一方、これまでに本遺伝子の発現が培養温度依存的に転写調節されている事を明らかにしてきたが、培養温度以外の環境因子で発現調節されるかを探索する。セリンプロテアーゼの産生をより上昇させる培養条件を見いだす事はセリンプロテアーゼの精製を行う上でも有益であると考えられる。 また、この培養温度依存的な転写調節の原因となる因子の同定を試みる。まず、A. trotaセリンプロテアーゼ転写開始点の同定を試み、その周辺の塩基配列がA. sobriaの塩基配列と変異が生じていないかを調べる。また、それらセリンプロテアーゼ遺伝子上流領域からのプロモーター転写活性をレポーター遺伝子を用いて評価する系を構築し、A. trota、A. sobriaで活性を比較する事で、培養培養温度依存的な転写調節の原因配列の同定を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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