研究課題/領域番号 |
24790425
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
新崎 恒平 東京薬科大学, 生命科学部, 助教 (70609990)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | レジオネラ菌 / レジオネラエフェクター / 細胞内小胞輸送 / 細胞内膜輸送 / SNAREタンパク質 / 繋留因子 |
研究概要 |
本申請研究では、肺炎を引き起こすことが知られているグラム陰性細菌に属するレジオネラ菌の細胞内発症機構の解明を目的として研究を行っている。具体的な研究実施概要は以下に記載する。 宿主細胞内に侵入したレジオネラ菌はレジオネラ小胞(Legionella-containing vacuole; LCV)と呼ばれる膜構造体を形成し、宿主細胞の小胞体より出芽した輸送小胞(ER小胞)を取り込み融合する。その結果、LCVの膜構造が小胞体-ゴルジ体間中間区画(ERGIC)と類似した構造に変化し、レジオネラ菌の増殖の場である小胞体との融合が可能となる。この一連の過程の中で、LCVとER小胞の繋留機構においては不明な点が多く残っている。そこで、申請者は宿主細胞の細胞膜に局在する繋留因子であるexocyst複合体に着目して研究を行った。 以前に行っていた研究より、レジオネラエフェクター(レジオネラ菌が宿主に分泌するタンパク質であり、レジオネラ菌の細胞内感染及び増殖に必要不可欠なタンパク質)の一つであるDrrAがexocyst複合体の構成因子と結合すること、及びexocyst複合体の機能阻害によりLCVへのER小胞の供給を抑えることを見いだしていた。 本申請研究により、DrrAと結合するexocyst複合体の構成因子がLCV膜上に集積することを見いだした。更に、それら構成因子の発現抑制により、LCVへのER小胞の供給を顕著に抑制すること、LCV-ER小胞の融合過程に必要であるSNARE複合体の形成(Stx3-Sec22bの相互作用)を阻害することが判明した。最も重要な知見として、それら構成因子の発現抑制がレジオネラ菌の細胞内増殖を顕著に抑制することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請研究は概ね順調に進展していると考えており、その理由は以下に記載する。 申請前までの研究により、LCV-ER小胞の繋留反応において宿主細胞の細胞膜上で繋留因子として機能するexocyst複合体の一部の構成因子が必要である可能性を示唆する結果を得ていたが、その具体的な分子機構等は不明なままであった。 本申請研究では、exocyst複合体の構成因子がLCV上に供給されることを見いだした。また、レジオネラエフェクターが放出できない変異株(dotA変異体)を含むLCV上では上記した構成因子の供給量が顕著に少ないことも見いだした。この結果は、レジオネラエフェクターがexocyst複合体の一部の構成因子をLCVへと導いていることを表してる。 次に、exocyst複合体の機能がレジオネラ菌の細胞内感染の促進及び細胞内での増殖に必要であるかの評価を行う為にsiRNAを用いた発現抑制の実験を行った。その結果、上記したLCV上に供給さえるexocystの構成因子の発現抑制ではLCVへのER小胞の供給及びそれに伴って引き起こされるSNARE複合複合体の形成(細胞膜に局在するStx3とER小胞に含まれるSec22bの結合;異なる二つの膜が融合する過程で必須な複合体)が顕著に抑制されることを明らかにした。更に、これら構成因子の発現抑制がレジオネラ菌の細胞内増殖を抑えることを見いだした。しかしながら、LCVへ供給されない構成因子の発現抑制ではこれらの現象は観察されなかったことから、レジオネラ菌はexocyst複合体の構成因子の中でも特定の構成因子を特異的に利用している可能性を示唆できた。 以上の内容を判断すると、本申請研究は当初予定していた計画通りに進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は他のレジオネラエフェクターの機能を模索する解析を行う。具体的な方javascript:onTransientSave()法は以下に記載する。 1:レジオネラエフェクターの一つにLidAと呼ばれるタンパク質がある。LidAは元々レジオネラ菌の細胞内増殖に必要なエフェクターとして同定されていたが、最近の研究よりDrrAと協調してRab1と結合することで、ER小胞のLCVへの効率的な供給に機能していると報告された。更に、ごく最近の研究よりLidAがRab1のみならず、その他のRabタンパク質とも結合することが報告された。そこで、LidAが細胞内で生理的に結合するRabタンパク質を同定することにより、レジオネラ菌の細胞内発症に関与するRabタンパク質の同定を試みる。 2:レジオネラ菌は宿主細胞に侵入する際にファゴサイトーシスを介していることが分かっている。通常、ファゴサイトーシスは細胞外の異物を細胞内に取り込みリソソームへと運び分解する生理機能である。しかしながら、ファゴサイトーシスにより細胞内に侵入したレジオネラ菌はリソソームへの輸送を阻害することが知られている。興味深いことにエフェクターが放出出来ないdotA変異株では速やかにリソソームへと輸送され分解されることから、何らかのレジオネラエフェクターが関わっていることが想像できる。ファゴサイトーシスにはRab5とRab7の二つの宿主タンパク質が重要な機能を保有していることから、何らかのレジオネラエフェクターがRab5やRab7の機能を阻害している可能性が考えうることから、レジオネラ菌の感染によりRab5やRab7の機能にどのうような影響があるのか、またどのレジオネラエフェクターがRab5やRab7の機能に影響を与えているのかを解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は上記した今後の方策に従って使用する。 1:レジオネラエフェクターであるLidAと結合するRabタンパク質の同定においては、まず3x-FLAGを融合させたLidAを細胞に発現させて、抗―FLAG抗体が付加したビーズでの免疫沈降を行う。よって、まずは免疫沈降に必要な試薬を購入する。免疫沈降後、質量分析にてタンパク質の同定を行い、得られたタンパク質(Rabタンパク質)がLCVへ供給されるのか否かを調べ、また、それらRabタンパク質の機能がレジオネラ菌の細胞内発症や増殖にどのような影響を与えるのかを調べる。よって、本研究では、得られたRabタンパク質のクローニングを行うために必要な試薬を購入する。また、内在性の局在を観察するにあたり、得られたRabタンパク質の抗体を購入する。更に、Rabタンパク質がレジオネラ菌の細胞内発症や増殖に与える影響を観察する為にsiRNAの購入も行う。 2:レジオネラ菌がリソソームへの輸送を阻害する経路の観察においては、大腸菌を用いたGST-Rab5やRab7の精製タンパク質を用いるので、まずタンパク質精製試薬を購入する。また、レジオネラエフェクターの同定が完了した場合は、それらエフェクターのクローニングを行うので、遺伝子改変試薬を購入する。
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