研究課題
緑膿菌感染症対策の一つとしてワクチンの開発は重要であるが、今日までに開発された緑膿菌ワクチンは、その効果と副作用について種々の問題を抱えており、新規なワクチンの開発が望まれている。そこで、本研究では緑膿菌の5型分泌装置によって分泌される蛋白質が、緑膿菌感染予防ワクチンの抗原として有用なのかを解明することを目的としている。平成25年度は、緑膿菌5型分泌蛋白質の一種であるPA3535 (EprS) について次の成果を得た。(1)アラビノース誘導型発現ベクターを用いて大腸菌における緑膿菌EprSの分泌発現系を構築した。本発現系におけるEprSの発現は、期待通りに菌体外で認められた。菌体外へ分泌された組換え体EprS (rEprS) は、陰イオン交換、ニッケルキレートカラムを用いて高純度に精製された。(2)EprSのアミノ酸配列から推測されたエピトープペプチドをウサギに免疫し、得られた抗血清をペプチド固定化カラムにてアフィニティ精製することで、EprSへの特異性が高い抗EprSポリクローナル抗体を得た。(3)rEprSは、塩基性アミノ酸残基のC末端側を切断する基質特異性のセリンプロテアーゼであった。(4)機能的なprotease-activated receptors (PARs) を発現しないアフリカミドリザル腎臓繊維芽様細胞株COS-7に、ヒトPAR-1, -2, -4をトランスフェクションすると、rEprS刺激によるNF-kappaBの活性化が認められた。(5)rEprSは、PARsを活性化することが知られているトロンビンやトリプシンと同様の形式で、ヒトPAR-1, -2, -4の細胞外領域を切断する酵素活性を示すことが確認された。(6)rEprSはヒト細気管支上皮細胞株EBC-1においてPAR-2を介してIL-8産生を誘導した。しかし、プロテアーゼ活性を持たない変異体ではIL-8産生の誘導は認められなかった。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度の研究計画では、組換え体PA4625蛋白質の機能解析を行う予定であったが、効率的に大量の組換え体PA4625蛋白質を得ることが困難であったことから、研究計画の遅延が予想された。そこで、本研究課題の研究計画調書に研究計画を進展させるための代替案として記載していたPA3535について機能解析を行った。その結果、得られた成果を学術論文と学術集会で発表することができた。PA3535は、PA4625と同じく緑膿菌5型分泌蛋白質の一種であることから、PA3535に関する研究成果は、PA4625の機能解析に活用できると考えられる。従って、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
平成25年度の研究計画がおおむね順調に進展していることから、平成26年度の研究は当初の計画通りに推進する。一方で、平成25年度は、組換え体PA4625蛋白質を実験に必要な十分量を得ることが困難であったことから、組換え体PA4625蛋白質の発現系の検討を引き続いて行う必要がある。そこで、平成26年度は当初から予定していた研究項目に加えて、組換え体PA4625蛋白質の精製効率を改善するために、発現させた異種蛋白質を分泌する能力が大腸菌よりも高い緑膿菌を用いた発現系を検討し、更なる研究の推進を図る。
平成25年度の研究計画では、組換え体PA4625蛋白質の機能解析を行う予定であったが、効率的に大量の組換え体PA4625蛋白質を得ることが困難であったことから、研究計画の遅延が予想された。そこで、本研究課題の研究計画調書に研究計画を進展させるための代替案として記載していたPA3535について機能解析を行ったため、次年度使用額が生じた。組換え体PA4625蛋白質の精製効率を向上させるために、緑膿菌における組換え体PA4625蛋白質の発現系を検討することに加えて、平成26年度の当初計画通り、次の項目の研究を計画している。(1)マウスへの組換え体EprSの免疫、(2)組換え体EprS免疫マウスの抗血清によるEprSの細胞毒性と付着能の阻害、(3)組換え体EprS免疫マウスの緑膿菌感染防御実験。
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