研究課題/領域番号 |
24790427
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
常 彬 国立感染症研究所, 細菌第一部, 主任研究官 (50370961)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 肺炎球菌 / 電撃性紫斑病 / 劇症型肺炎球菌感染症 |
研究概要 |
肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)は血液寒天培地上で α 溶血性を示すグラム陽性球菌である。本菌は成人にも乳幼児にも、中耳炎、肺炎、髄膜炎、敗血症などを引き起こす臨床上重要な細菌で、病原因子として、莢膜、付着因子、pneumolysin、proteinase などが報告されている。しかし、近年、治療しているにも関わらず本菌による大葉性肺炎や、さらに電撃性紫斑病を含む劇症型症例が多く見られる傾向があり、劇症型感染の発症機構や肺炎球菌の病原性変化にはまだ説明できない多くのものが残されている。そこで、本研究は劇症型肺炎球菌感染症の発症機構や肺炎球菌の病原性変化の分子基盤について解明することを目的とする。 1:好中球の貪食に抵抗する作用について調べた。劇症型肺炎球菌感染症由来肺炎球菌(以下、劇症型 SP と略す)およびそれらと同一の血清型と遺伝子型を示す非劇症由来肺炎球菌(以下、非劇症型 SP と略す)を、ヒト末梢血由来好中球に感染させ (MOI=0.01)、貪食に抵抗し、生存する菌数を調べた結果、好中球の貪食に抵抗する作用は劇症型 SP と非劇症型 SP の間に有意差がみられなかった。 2. 劇症型肺炎球菌感染症、特に電撃性紫斑病は急激に皮膚の出血性壊死が進行する病態である。血小板の減少または過剰活性化は出血しやすくなる原因と考えられる。我々は劇症型 SP およびそれらと同一の血清型と遺伝子型を示す非劇症型 SP の、ヒト由来血小板を凝集する作用と活性化する作用を調べた。その結果、非劇症型 SP に比べ、劇症型劇症型 SP にはより強い血小板の活性化作用がみられたが、有意差はなかった。 平成25年度は、マウスモデルを作成し、in vivo での劇症型感染症由来肺炎球菌および非劇症型由来肺炎球菌の差について解析を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の一年目は in vitro の実験系を中心とし、劇症型感染症由来肺炎球菌および非劇症型由来肺炎球菌の違いについて解析する計画を立てた。劇症型感染症由来肺炎球菌および非劇症型由来肺炎球菌のあいだに、有意差はみられなかった。当初に計画していた研究内容をおおむね行ったので、順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に in vitro の解析方法を中心とする研究を進めたが、劇症型感染症由来肺炎球菌および非劇症型由来肺炎球菌について大きな違いがみられなかったため、劇症型感染症を引き起す宿主からのファクターが劇症型感染の病態形成に大きな役割を果たすことが考えられた。従って、平成25年度において、in vivo を中心とする劇症型感染症由来肺炎球菌および非劇症型由来肺炎球菌の差について解析を行う予定である。現在、当研究所の動物実験実施計画申請を行っている。 1:肺炎球菌の劇症型感染症の動物感染実験モデルを作成する。肺炎球菌が引き起す劇症型感染症の症状、特に急性電撃紫斑病の症状を再現できるマウスについては、劇症型レンサ球菌感染症の遅延死マウスモデル(軟部組織感染を起すモデル; Saito M. Microbiol. Immunol. 2001, 45: 777-786)を参考にし、動物感染実験モデルを作成する。必要な場合は、変異マウスを用いて、モデルを作成する予定である。 2: 劇症型感染症由来肺炎球菌と非劇症由来肺炎球菌をマウス皮下または筋肉内に感染させ、肺炎球菌の軟部組織感染の程度、血液からの分離(菌血症を起すかどうかの検討)、臓器内菌数の変化、生存曲線、病態の生化学的、病理学的検討などを行い、その差について解析を行う。 3:劇症型感染症由来肺炎球菌と非劇症由来肺炎球菌をマウスに腹腔内投与し、血液からの分離、臓器内増殖の分布、生存曲線、病態の生化学的、病理学的検討を行い、その差について解析を行う。 4:マウスで強い病原性を示した劇症型感染症由来肺炎球菌の全ゲノム塩基配列を決定し、劇症型感染症の発症に関連する病原因子の解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究の一年目は in vitro の実験系を中心とした計画であった。しかし、劇症型感染症由来肺炎球菌および非劇症型由来肺炎球菌のあいだに有意差はみられなかったため、消耗品の使用量は予測より少なく、当該助成金の次年度繰り越しが生じた。 翌年度は、劇症型感染症由来肺炎球菌の発症機構についてin vivo を中心として検討する予定であり、研究費は主に動物の購入、飼育、管理に使用する計画である。また、in vivoで強い病原性を示す劇症型感染症由来肺炎球菌の全ゲノム塩基配列を決定し、劇症型感染症の発症に関連する病原因子の解析にも使用する予定である。
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