研究課題/領域番号 |
24790429
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
関塚 剛史 国立感染症研究所, 病原体ゲノム解析研究センター, 主任研究官 (40462775)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 難培養細菌 / 腸内細菌叢 / 細菌ゲノム |
研究概要 |
ヒト腸管内には、未だ分離されていない未知・難培養細菌が多数存在する。マウスの難培養細菌のセグメント細菌(SFB)は、マウスの免疫系を活性化する事が報告されており、未知・難培養細菌の研究は宿主の健康維持に非常に重要である。しかし、SFBは現在培地上での培養が不可能であり、SFBを単独定着させたマウスで継代培養を行っている。実験動物の難培養細菌の研究には適しているが、ヒトでは上記手法は困難である。難培養細菌の解析として、single cellを用いたゲノム解析も行われているが、生きた細菌を分離していないため、その後の生物学的および細菌学的解析を行うことが困難である。難培養細菌が分離培養可能になる事で、生物学的性状を解析出来るのみならず、ゲノム配列の取得により、より詳細に供試菌株を理解する事が可能となり、腸内細菌叢を更に理解することが可能となる。本研究は、未知・難培養細菌を本来生息する環境に近い条件で培養し、それら細菌の特徴をゲノムレベルで理解する事を目的としている。難培養細菌の増殖には、本来の環境に沿った条件で培養するのが最も効率的であり、増殖に必須の成分も含まれていることが示唆される。そこで、糞便を用いて培地を作製し、より腸内環境に類似した栄養条件で培養するための基礎的解析を行った。今年度の研究により、糞便の塩濃度、pH測定および糞便の滅菌の条件検討を種々解析手法にて行い、糞便培地を作製する為の情報を収集することが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
糞便中の菌体を滅菌する手法として、高圧蒸気滅菌とγ線滅菌を行った。二種の方法を採用した理由は、熱によるタンパク質の不活化の有無において、培養可能な菌種が変動するかを確認する為である。高圧蒸気滅菌では、121℃、15分で滅菌を行った。γ線滅菌では、10, 20, 30 kGyの照射を行った。それぞれの滅菌後、LIVE/DEAD BacLight Bacterial Viability Kitにて染色を行い、糞便中の細菌の生存の確認を行った。その結果、高圧蒸気滅菌では全ての菌体が死菌として観察された。γ線滅菌では、10 kGy照射において、菌体が生菌として観察されたが、20および30 kGyでは、生菌と死菌の中間体として観察された。GAM変法培地にて滅菌した糞便の嫌気培養を行ったところ、全ての滅菌処理糞便からは菌体は培養されなかった。γ線滅菌では、10 kGyでの照射が、菌体の構造およびタンパク質の不活化が抑えられていると示唆されたため、今後は10 kGyの照射でγ線滅菌を行うことが妥当と判断した。滅菌した糞便の、塩濃度およびpHの測定を行った所、塩濃度は0.78% (w/v)、pHは約7であった。得られた結果から、糞便培地を作製する為の基礎ができた。糞便中の生菌及び死菌の状態を分子生物学的に把握する為に、propidium monoazide (PMA)にて処理し、生菌の16S rRNA遺伝子を特異的にPCRにて増幅後、PMA処理および未処理間の比較解析を行うための準備として、16S rRNA遺伝子V4領域のデータベース作製を行った。また、未滅菌の糞便および、高圧蒸気滅菌、γ線滅菌済糞便の試料を用いて、PMA処理後、PCRを行い、網羅配列解読を行う準備が整っている。
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今後の研究の推進方策 |
種々の条件で作製した糞便培地より分離した菌の分離培養を行い、市販されている、嫌気培養で広く使用されている培地にて、分離した菌が培養出来るか否か(難培養性細菌か否か)の確認をしていく必要性がある。糞便培地に使用する供試糞便にも限りがあることもあり、サンプリングを計画的に行う必要があると思われる。得られた菌株は、16S rRNA遺伝子全長を確定し、大規模な系統解析を行う。また、寒天培地上で増えた菌体のみならず、糞便液体培地を作製し、供試糞便を接種し、嫌気状態で培養する。DNA抽出後、16S rRNA遺伝子の解読し、各条件で増殖しやすい細菌の割合の比較を行う。この手法により、コロニー単体では増殖が困難な難培養性細菌の増殖の有無の確認を行うことが可能となると期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
糞便培地を用いて培養されたヒト腸内の細菌を少なくとも3000コロニーの16S rRNA遺伝子の配列をサンガー法により決定する。サンガーシークエンスは、150円 / 1サンプルの経費を要する。 150円/サンプル x 3000サンプル x 2(両方向から配列決定) = 900 千円 その他、細菌の培養に必要な関連試薬が20千円、及び旅費80千円とする。
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