研究課題/領域番号 |
24790431
|
研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
山本 章治 国立感染症研究所, 細菌第一部, 主任研究官 (80469957)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 該当なし |
研究概要 |
キチンの分解産物(GlcNAc)2は,コレラ菌のDNA取り込み能(コンピテンス)を活性化するシグナル分子である。本研究は,(GlcNAc)2のシグナル伝達に関わる因子として見いだされた蛋白質TfoS(VC2080)の機能を解明することを目的とする。TfoSは膜局在型の転写因子と推定されており,その遺伝子を欠失させると(GlcNAc)2によるコンピテンスレギュロンの活性化能が失われる。当該年度は以下の4点について解析を行った。 1)TfoSの局在性の解析:コレラ菌の細胞質,内膜,ペリプラズムおよび外膜のうち,TfoSは内膜に局在することが示された。 2)TfoSの欠失解析:TfoSはペリプラズムドメイン,膜貫通ドメインおよびDNA結合ドメインの3つのドメインをもつ。レギュロンの上位に位置する遺伝子tfoR(tfoR-lacZ転写融合)の発現活性化能を指標にして,各ドメインの役割を調べた。DNA結合ドメインはtfoRの発現に必須であった。ペリプラズムドメインおよび膜貫通ドメインを欠失させるとtfoRの発現が構成的になったことから,両ドメインはTfoSの活性を負に制御する役割をもつと考えられた。 3)大腸菌におけるシグナル伝達系の再構成:大腸菌に組み込んだtfoR-lacZの発現は,(GlcNAc)2とTfoSが両方存在する場合でも活性化されなかった。TfoSのDNA結合ドメインのみを発現させた場合では,(GlcNAc)2非依存的にtfoR-lacZの発現が活性化された。以上の結果より,(GlcNAc)2のTfoSに対する作用は間接的であるが,TfoSのtfoRに対する作用は直接的である可能性が示唆された。 4)TfoSの精製:全長蛋白質は発現量が低くかつ不溶化するために精製できなかったものの,DNA結合ドメインはマルトース結合蛋白質と融合することで可溶化し,うまく精製することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の目標は,1)TfoSの膜局在を確認する,2)TfoSの各ドメインの役割を理解する,3)シグナル伝達経路(GlcNAc)2→TfoS→tfoRにおいて各因子間の相互作用が直接的なものかどうか確認する,4)今後のin vitroでの解析に備えてTfoSの精製を行う,という4点であった。このうち,1)と2)については目標を達成し,TfoSが膜局在型蛋白質であることを示すとともに,(GlcNAc)2応答に必要なドメインを大まかに特定することができた。3)については,大腸菌における再構成系を用いた結果から,TfoSそのものが(GlcNAc)2応答に関わる可能性は低くなったものの,TfoSがtfoRの転写を直接制御していることを示唆できた。4)については,全長蛋白質は精製できなかったが,DNA結合ドメインを精製することに成功し,TfoSによるtfoRの転写活性化機構をin vitroで解析するための系が完成した。 以上の成果から,研究はおおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
翌年度以降は以下の4点について解析する。 1)TfoSによるtfoRの転写活性化能の解析:精製した蛋白質がtfoRの転写を活性化するかどうかをin vitro転写系を用いて解析する。 2)TfoSのDNA結合能の解析:精製した蛋白質がtfoRプロモーターに結合するかどうかをゲルシフトアッセイをで解析する。さらにDNase IフットプリンティングによってTfoSのDNA結合配列を特定する。 3)TfoSによるグローバルな遺伝子発現制御の解析:野生株とtfoS欠失株におけるコレラ菌全遺伝子の発現を,DNAマイクロアレイを用いて比較し,コンピテンスレギュロンに属する既知遺伝子の発現変動を確認する。また,この結果とDNase Iフットプリンティングによって得られたTfoSの結合配列を比較することにより,TfoSの新規なターゲット遺伝子を予測する。 4)TfoSを制御する因子の同定:現在までの解析から,(GlcNAc)2のTfoSに対する作用は間接的であると考えられるため,この間を介在する因子を遺伝学的に同定する。tfoR-lacZおよびtfoSをもたせた大腸菌に,コレラ菌ゲノムライブラリープラスミドを導入し,(GlcNAc)2存在下でtfoR-lacZの転写活性が上昇するクローンを選択する。ポジティブなクローンが得られれば,その遺伝子を欠失させ表現型を調べるとともに,蛋白質の発現・局在性を解析する。また,蛋白質を精製し,(GlcNAc)2ゲルを用いたアフィニティクロマトグラフィーによって(GlcNAc)2との結合能を解析する。さらに,この蛋白質とTfoSの結合をプルダウン等で調べる。以上の手順により,候補因子が(GlcNAc)2→TfoSの間をリンクさせる役割を担うことを確認する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
引き続いて基本的な実験操作(核酸,蛋白質などの取り扱い,細菌の培養等)に必要な酵素類・キット類もしくはプラスチック製品を購入する。また,(GlcNAc)2ゲルを購入するための費用,DNAマイクロアレイ遺伝子発現解析を行うための費用および核酸のラベルに必要なラジオアイソトープを購入するための費用にも充てる。さらに,研究成果を発表するための経費(国内外の学会等に参加するための費用,論文投稿に必要な費用)として使用する予定である。
|