研究課題
高度多剤耐性緑膿菌が日本や東南アジアの医療施設で新興し、院内感染対策上の大きな脅威となっている。H24年度は日本および東南アジアの医療施設から集められた多剤耐性緑膿菌200~300株の薬剤耐性プロファイルを決定した。さらに、全株からゲノムを抽出し、薬剤耐性因子を決定したところ、2011年に分離された多剤耐性緑膿菌からアミノグリコシド高度耐性に寄与する新規アミノグリコシド耐性因子AAC(6')-Iaj(GenBank accession no. AB709942)を同定した。制限酵素SpeIで消化し、PFGE(pulsed-field gel electrophoresis)パターン解析を行なったところ、現在日本で広まっているAAC(6')-Iae産生多剤耐性緑膿菌のPFGEパターンとはとは大きく異なることが明らかとなった。また、AAC(6')-IajはAAC(6')-Iaeと比較して、アルベカシンに対する活性が高いことが分かった。2010年度から2012年度にかけてAAC(6')-Iae産生多剤耐性緑膿菌の割合は約20%減少し、AAC(6')-Ib産生多剤耐性緑膿菌の割合が約10%増加した。AAC(6')-Ib産生株を詳細に解析したところ、新規IMP-typeメタロ-β-lactamase IMP-43(accession no. AB777500)およびIMP-44(accession no. AB777500)を同定した。これらのIMP variantはメロペネムに対する酵素活性が非常に高いころが明らかとなった。IMP-43は2011年および2012年度分離株390株中、9株で検出され、今後、さらに広まる可能性が示唆された。日本でAAC(6')-Ib産生菌が増加しつつある中、AAC(6')-Ib産生菌検出用イムノクロマトキットを開発した。
2: おおむね順調に進展している
2009年から2012年に分離された多剤耐性緑膿菌を分子疫学解析することにより、多剤耐性緑膿菌の薬剤耐性因子が大きく変化しつつあることが分かった。H24年度AAC(6')-Ib産生菌検出用イムノクロマトキットを開発しつつ、臨床分離株から新規アミノグリコシド耐性因子AAC(6')-Iajおよび新規IMP-typeメタロ-β-lactamase IMP-43およびIMP-44を同定することができた。IMP-43はIMP-7と比較するとVal67Pheの変異がみられ、IMP-44はIMP-11と比較するとVal67PheおよびPhe69Serの変異が見られるた。IMP-7、IMP-11、IMP-43およびIMP-44の酵素活性を比較すると、Val67Pheがメロペネムに対する酵素活性を高め、Phe87Serがドリペネムやパニペネムに対する活性を高めていることから、これらの変異部位がカルバペネム耐性に寄与していることが明らかとなった。これらのデータは今後の院内感染対策に大きく貢献できると考えられた。日本以上に高度多剤耐性緑膿菌がアウトブレイクしているベトナムの医療施設から分離された多剤耐性緑膿菌50株の薬剤耐性遺伝子を解析した結果、16S RNA methylase RmtBを持つ耐性株が高頻度で確認された。16S RNA metnhylaseはアミノグリコシド系薬に対し、超高度耐性を付加する耐性遺伝子である。東南アジアにおける多剤耐性緑膿菌に関する報告はほとんどなく、ベトナムからは初の報告である。東南アジアへの海外渡航者や在留外国人は依然として多く、医療施設における院内感染の早期摘発および早期対策の強化が必要となろう。これらの結果は公衆衛生上の意義は大きく、学術的な波及効果も期待できる。
H25年度は新たに集められた多剤耐性緑膿菌300株に対し、薬剤耐性プロファイルを作成し、薬剤耐性因子とのすり合わせを詳細に行う。新たな薬剤耐性因子が見つかれば、その性遺伝子を適当なプラスミドに挿入し、大腸菌へ形質転換する。新規薬剤耐性遺伝子がアミノグリコシド系薬に対する酵素の場合、pSTV28に耐性遺伝子を挿入し、大腸菌に形質転換してアミカシン、アルベカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、トブラマイシンおよびネオマイシンにてMICを測定し、大腸菌ベースの薬剤耐性プロファイルを作製する。さらに、タンパク精製を行い、基質としてカナマイシン、トブラマイシンおよびネオマイシンを反応させ、酵素活性をTLCプレート上で視覚化する。β-ラクタム耐性遺伝子の場合、pHSG389ベクターに耐性遺伝子を挿入し、セフェム系およびカルバペネム系薬に対するMICを測定し、大腸菌ベースの薬剤耐性プロファイルを作製する。タンパク精製を行い、酵素活性をセフェム系およびカルバペネム系薬を基質として、UV法でその開裂を測定する。
該当なし
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