ハンタウイルスは、病原性の高い出血熱ウイルスのひとつで、ヒトに腎症候性出血熱 (Hemorrhagic fever with renal syndrome: HFRS) を起こす。その病態発現メカニズムを解明するため、研究代表者はHFRSマウスモデルを確立した。このモデルでは、ウイルス接種後6~12日にHFRS患者に特徴的な腎髄質の出血が認められる。これまでに、ウイルス糖蛋白質Gnの417番目のアミノ酸およびT細胞が病態発現に関与することを明らかにした。また、発症し始める時期にあたる接種後6日をピークとして、多くのサイトカインの血中濃度が増加することを明らかにした。今年度は、病変発現部位である腎臓において、発症時に発現量が大きく変動するサイトカインの同定を試みた。その結果、CXCL9 (C-X-C motif Chemokine ligand 9) が非感染マウスの50倍以上に増加することが明らかとなった。CXCL9はケモカインの一種で、細胞性免疫に関与するCD8陽性T細胞などを遊走させる活性を有する。このことから、感染後、腎臓中で産生されたCXCL9が過剰な細胞性免疫を誘導し、腎出血を起こしている可能性が考えられた。そこで、CXCL9の活性を中和する抗体をマウスに投与し、感染実験を行った。しかし、抗体投与による病態発現の抑制効果は認められなかった。CXCL9は、CXCL10およびCXCL11とともに、受容体であるCXCR3を持つ細胞に作用する。CXCL10およびCXCL11の血中および腎臓中の濃度も比較的高いことから、これらが協調的に作用して過剰な細胞性免疫を誘導している可能性はある。今後、CXCR3を欠損するマウスでこれらケモカインの病態発現への関与の有無を検証する必要があると考えられる。
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