研究課題/領域番号 |
24790445
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
門出 和精 熊本大学, 生命科学研究部, 助教 (70516137)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | HIV-1 / HERV-K / Gag / 共重合 / 出芽 |
研究概要 |
本研究目的として以下の3つの計画について遂行している。①HIV-1感染T細胞内でHERV-Kタンパク質が発現する仕組みを解明する。②HERV-K Gagタンパク質がHIV-1 Gagタンパク質にどのように影響するか解析する。③HIV-1粒子へHERV-K gRNAが取り込まれ、HIV-1の感染性に影響するか検討する。 研究目的②に関して解析を行った結果、Gagタンパク質を構成するドメインであるMAドメイン、NCドメイン、更にCAドメインのN末端側もHIV-1とHERV-K間のGagタンパク質のヘテロ結合に重要であることを明らかにした。HERV-K Gagタンパク質のヘテロ結合と、HIV-1粒子の放出、感染の抑制にどのような相関関係があるかについて現在解析中である。電子顕微鏡で得られた写真からは、HERV-Kの粒子は細胞膜上に蓄積し、放出されたウイルス粒子は2つ以上が数珠つなぎ状態になる様子が観察された。このことからHERV-Kの粒子は、細胞膜からpinch offされる際に不具合が生じる可能性が示唆された。我々は仮説として、HERV-K Gagタンパク質の取り込みにより、HIV-1粒子はpinch offする際に不具合が生じることで放出が抑制される可能性と、放出されたHIV-1粒子は形状が通常より大きくなり感染性が低下する可能性を考えている。ショ糖速度勾配超遠心法(Velocity Gradient)を用いた研究により、HERV-K Gagタンパク質発現細胞から放出されたHIV-1粒子はサイズが大きくなることが明らかとなった。このことから、HERV-K Gagタンパク質を取り込んだHIV-1粒子は数珠つなぎ状態になり、感染性が低下する可能性が示唆された。 研究目的の①、③については、現在も解析を行っているところだが、結論には至っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述したように、HERV-Kは粒子が細胞膜からpinch offする際に不具合が生じるように見えたことから、そのHERV-K Gagタンパク質と結合することにより、HIV-1粒子のpinch offにも同様の不具合が生じる可能性が推測された。この仮説を裏付けるためには、効率よくpinch offできるHERV-K Gag変異体を作製し、その変異体が結合した状態でもHIV-1粒子が効率よく放出することを確認する必要があった。我々は、pinch offに関与する可能性があるモチーフに変異をいれたHERV-K Gag変異体や、pinch offに関与するHIV-1ドメインを融合させたキメラ化HERV-K Gagタンパク質を作製した。しかし、どの変異体を用いてもHERV-K粒子のpinch offに変化は見られなかったため、HIV-1に対する効果を検証するまでには至らなかった。現在、他のアプローチにより仮説を検証できないか模索中のため、予定よりやや遅れている。 T細胞株のmRNAから様々なHERV-Kウイルス株を分離し、その中からHIV-1の増殖に対して比較的干渉しないHERV-K CA変異体を発見した。HERV-K WTがHIV-1の増殖を約70%抑えるのに対して、HERV-K CA変異体は約30%しか抑えなかった。そのため、このHERV-K CA変異体を用いて、HIV-1の増殖を抑えない原因を探ってみた。しかし、この変異体はHIV-1の増殖を約30%は抑えることから、機序解明を進めていくにつれ、不明瞭な点が多く見られるようになり、有意差はあってもインパクトが低い結果となってしまった。そのため、計画を一部修正する必要がでてきた。このことも予定よりやや遅れている原因である
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今後の研究の推進方策 |
上述したように、WT HERV-K GagはHIV-1の増殖を約70%抑えたのに対して、HERV-K CA変異体は約30%抑制したため、その差は小さく、後の解析で不明瞭な点が見られた。この改善のため、変異体の代わりに、MLV CAのN末端をコードするキメラ化HERV-K Gagを用いて解析を行う。このキメラ化HERV-K Gagは、HIV-1の放出を全く抑制しないことが既にわかっている。そのため、以後の研究結果を明確にし、インパクトのある結果が得られることが期待される。具体的な計画案として、キメラ化HERV-K GagとHIV-1 Gagの局在、ヘテロ結合の有無を検証する。これにより、HIV-1の放出抑制には異種間のCAのヘテロ結合が関与するのか、それともCAの別の機能が関与するのか検討できる。次にショ糖速度勾配法を用いて、HIV-1粒子のサイズは、WTと同様にキメラ化HERV-K Gagによって変化するか解析する。最後に、ショ糖速度勾配法で分離したサイズの異なるHIV-1粒子間で感染性に差がでるか、また感染のどの時期でその差がでるか解析する。CAはウイルスコアを構成するため脱殻に影響することも考えられるし、異常なウイルス粒子形成によって吸着、膜融合に影響することも考えられるため興味深い知見となる事が期待される。これらの研究により、HERV-K CAのN末端側がHIV-1粒子放出抑制に重要であること、また異種のCAがどのような機序でHIV-1の放出、感染性を抑制するかについて解明できる事が期待される。以上の研究を、研究目的②のまとめとして本年度中に完遂する。 研究目的①、③に関しては、近年報告されたウイルス発現抑制に関与する新たな宿主因子も含めて、T細胞でのHERV-Kの発現制御機構の解明を当初の計画に沿って遂行する。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度と同じように、HIV-1粒子の放出抑制の解析のために、HIV-1 Gagタンパク質とHERV-K Gagタンパク質を定量する。定量は、Western blotとp24 ELISAで行うため、それぞれのGagタンパク質に対する特異的抗体等のWestern blot解析に必要な試薬、p24 ELISA kitを追加購入する。異種間のCAタンパク質の結合を解析するために、プロテインAセファロース等の共免疫沈降法に必要な試薬を購入する。HIV-1の感染性を解析するために、HIV-1 Tatによって活性化されるluciferaseを定量し、また逆転写前後のウイルス遺伝子産物をReal time qPCR法によって定量する。その定量ために必要な試薬を購入する。また本研究には、細胞に遺伝子を導入することが必須なため、細胞を継代するための培地、遺伝子導入のためのlipofectamine等の試薬を必要に応じて購入する。 研究目的②の内容はまとめの時期に入っているため、国際学会発表、論文投稿等にかかる諸費用にも使用する。
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