研究概要 |
HIV感染症は優れた薬剤の開発により制御されつつあるが、いずれの薬剤も耐性ウイルスを誘導することから新たな作用機序を有する薬剤の開発が望まれている。そこで、本研究は、既存の薬剤と異なる作用機序を有する抗HIV薬開発の基礎的研究を行った。これまでに新規HIV転写阻害剤を同定するために、3,000,000種類の化合物を用いてCycT1のTat/TAR結合サイトを標的としたインシリコスクリーニングを実施し、その結果、HIV産生を抑制する新規低分子化合物Cを同定した。さらに化合物Cの作用機序を分子レベルで明らかにするために詳細な解析を実施したところ、化合物Cは、Tatによって活性化されるLTR転写を阻害し、結合実験においてTatとCycT1の結合を阻害することが示された。このことから、化合物Cは、CycT1とTatの結合を阻害することで、TatによるHIVのLTR活性化を抑制し、HIV産生をブロックする化合物であることが示された。さらに、化合物Cの化学構造を基に構造類似体を探索し、約100種類の類似体のCycT1のTat/TAR結合サイトを標的としたインシリコスクリーニングを行った。その結果、化合物Cと比較して、より強い活性を有する10種の類似体の同定に成功した。今後は、さらにこれらの化合物の抗HIV活性を急性感染系と慢性感染系で評価し、TatによるLTRの転写活性化、TatとCycT1の結合実験等により、化合物Cの活性、化学構造、ドッキングポーズ等を比較しながら、CycT1を標的とした新規HIV転写阻害剤の開発を進めていく予定である。
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