申請者らは、亜鉛フィンガー転写因子Bcl11bがT細胞分化初期において、自然免疫に属するNK細胞分化を阻止し、T細胞への運命を維持することを明らかにしてきた。さらに、さまざまなT細胞小集団が分化する際のBcl11bの役割を検討するため、T細胞特異的Creトランスジーンによる条件欠損マウスや、Bcl11bに826番目のセリンをグリシンに置換する変異を導入したマウスを解析してきた。その結果、Bcl11bの活性低下によってCD8+細胞やNKT細胞の分化が阻害されること、さらに、胸腺CD8+細胞においては、Bcl11bの機能が低下すると、活性化マーカーCD44やCD122が発現上昇し、マイトジェン刺激によって迅速にIFN-gammaが産生されること、くわえてCD122やIFN-gammaの発現を制御する転写因子Eomesも発現していることを明らかにしてきた。これらは、胸腺CD8+細胞の活性化を示していると考えられる。 これらの結果を踏まえ、25年度は、Bcl11bの活性が低下している胸腺CD8+細胞の転写産物をマイクロアレイ法により網羅的に解析した。この結果、上にあげた以外にもCD8+T細胞の活性化を示す遺伝子の上昇が認められるたものの、 細胞増殖と関連する遺伝子群の発現は低下していたことから、抗原刺激に応答して増殖するエフェクターT細胞とは区別されることが明らかになった。一方、自然免疫を担うTリンパ球に特徴的な遺伝子群の発現が上昇していたことが判明した。これらの結果は、Bcl11bは、T細胞分化の初期のみならず、さまざなT細胞小集団に分化する際にも自然免疫的な性質の発現を抑制することを示唆している。
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