研究課題/領域番号 |
24790467
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
小田 朗永 信州大学, 医学部, 研究員 (80547703)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | IL-4 / Th2 / 好塩基球 / PIR-B |
研究概要 |
骨髄から単離したばかりの好塩基球はPIR-Bを発現しておらず、IL-3に応答しIL-4を産生する。一方で、IL-3で培養した好塩基球(BMBs)は、活性化マーカーであるCD69の発現が上昇し、同時にPIR-Bの発現が上昇した。それに伴いIL-3に対する応答性を消失した(IL-3不応答性の獲得)。 このIL-3不応答性を獲得した野生型BMBsとは異なり、PIR-B欠損マウス由来のBMBsはIL-3に対し多量のIL-4を産生し続けIL-3不応答性が破綻した。そして、PIR-B欠損マウス由来のBMBsへ、野生型PIR-Bを再導入する事によりIL-3不応答性を再び獲得した事から、活性化好塩基球におけるIL-3不応答性の獲得はPIR-Bの発現によって誘導されている事を明らかにした。 生化学的解析により、PIR-B欠損IL-3-BMBsはPLCγ2のリン酸化が亢進していた。そして野生型PIR-B を導入したPIR-B欠損BMBsは、亢進していたPLCγ2のリン酸化が抑制され、IL-3不応答性を再度獲得した。それらの結果はPLCγ2がIL-3受容体からのIL-4産生シグナル分子であり、PIR-BがPLCγ2のリン酸化を抑制する事により、そのシグナルを負に制御しているという事を示唆している。 PIR-Bは抑制モチーフであるImmunoreceptor tyrosine-based inhibitory motifs (ITIM)を介して細胞内シグナルを抑制するという事が知られている。しかし、ITIM欠損変異型PIR-Bを導入したPIR-B欠損BMBsは、PLCγ2のリン酸化を抑制し、同時にIL-3誘導性IL-4産生も強く抑制できる事がわかった。 これらの結果は、IL-3誘導性IL-4産生シグナルの抑制がPIR-BのITIM 非依存的にPLCγ2のリン酸化を制御している事を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実施予定であった研究計画は、「1. IL-3により誘導されるIL-4産生誘導シグナルの解明」と「2. FcεRI応答性の獲得における可逆的スイッチングのメカニズムの解明」、さらに「3. IL-3応答性の消失におけるPaired Ig-like receptors-B(PIR-B)の役割の解明」であった。1と3に関しては、IL-3誘導性IL-4産生シグナルの抑制がPIR-BのITIM 非依存的にPLCγ2のリン酸化を制御しているという事を明らかにできたように、滞り無く研究を進める事ができた。 しかし「2. FcεRI応答性の獲得における可逆的スイッチングのメカニズムの解明」、すなわちIL-3存在下での獲得できる培養好塩基球はIL-4産生においてFcεRIの応答性を獲得している一方IL-3への応答性を消失しており、IL-3非存在下12時間以上培養するとIL-3への応答性を回復し、FcεRIの応答性を消失するという分子メカニズムの解明についての研究は、予定通りの進展をしていない。PIR-B欠損活性型好塩基球は、野生型と同様にIgEに対する応答性を獲得し、IL-3非存在下で培養すると、IgEに対する応答性を消失する。従って、IL-3応答性の消失については完全にPIR-Bによって制御されているが、IgE応答性IL-4産生には無関係であり異なったメカニズムが存在している。 FcεRIとIL-3RによるIL-4産生は共通してFcRγ-ITAM-Syk経路を介しているにも関わらず、全く異なる応答性を示すのはとても興味深い。またIL-3、IgEと同様にIgGに対しても好塩基球は応答性を持ち、さらにFcγRもFcRγ-ITAM-Syk経路を介している。好塩基球へのIL-3、IgE刺激に加え、IgG誘導性のIL-4産生が好塩基球の状態によってどのように変化をするのか?についても来年度の課題とする。
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今後の研究の推進方策 |
PIR-BはB細胞、樹状細胞、マクロファージ、顆粒球、マスト細胞など様々なリンパ球に発現し、ITAM含有受容体シグナルを負に制御することによって、免疫応答を抑制している。PIR-B細胞内ドメインであるITIMのチロシン残基がリン酸化されると、protein tyrosine phosphataseであるSHP-1とSHP-2がリクルートされ、活性化シグナルが抑制される事が示されている。しかし、好塩基球によるIL-3誘導性IL-4産生において、PIR-BはITIM非依存的にサイトカイン産生シグナルを負に制御しているというこれまでに全く知られていない抑制機構の存在が明らかになった。このITIM非依存的な抑制メカニズムにSHP-1/2は本当に関与していないのかを、さらなる変異型PIR-Bを作製し、分子生物学的に詳しく調べて行く予定である。 また、現在はIL-3に対する好塩基球のサイトカイン産生シグナルに着目しているが、好塩基球は様々な刺激に応答し、IL-4を産生する事が知られている。その他の刺激(例えばIgEやFcγR)においてもPIR-Bによる抑制機序が関わっているのかどうかについても研究を行う予定である。さらに、PIR-Bによって誘導される好塩基球におけるIL-3応答性の消失の生理学的意義についても、研究を進めていきたい。すなわち、PIR-B欠損マウスはTD抗原に対して血中のIgG、IgEの発現レベルが上昇しアレルギー様の表現型を呈する事が明らかにされており(東北大学、氏家ら、Nature immunol)、従って、好塩基球がPIR-B欠損マウスが呈する偏ったTh2応答に関与しているのではないかと仮説をたて研究を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
来年度に研究で必須の実験手法は、フローサイトメトリー、免疫沈降法などの生化学解析、分子生物学的手法による遺伝子変異体の作製(活性型、不活性型の作製など)、そしてレトロウイルスを用いた遺伝子導入、干渉RNAによる目的の分子の発現抑制、IL-4産生など液性因子測定のためのELISA法である。そのため、抗体類(各種蛍光標識抗体、ビオチン標識抗体)、酵素類、ELIZAキットなど分子生物学試薬の購入のための研究費が必要である。購入に際しては慎重な予備検討の上で購入する。本研究室に必要な設備は、全てが備わっており、新たに機器類を購入する必要は無いため、研究費のほとんどが消耗品として計上されている。また、DNAシークエンス等、一部の解析を外注するために、その他の経費が含まれている。また、マウス好塩基球を対象として免疫応答に関する研究を行うものである。そのため、SPF環境下でそれらのマウスを維持、管理する事が必須であり、その研究費を必要としている。同時に、遺伝的素因による影響の排除が必要であり、遺伝子改変マウスの近交系としての維持のためにC57B/6やBALB/c等の近交系マウスを定期的に購入する経費を必要としている。
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