研究課題/領域番号 |
24790468
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
原 崇裕 京都大学, ウイルス研究所, 助教 (90512301)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | IL-7 / 内皮細胞 / B細胞 / T細胞 |
研究概要 |
サイトカインIL-7は、リンパ球の分化・増殖・生存にとって重要なタンパク質であり、生体防御システムの構築に必須の分子である。しかしながら、IL-7を産生する細胞が何なのか、そして局所的にどのように機能しているのか殆ど分かっていない。本研究ではこの2点の疑問を明らかにすることを目的としており、リンパ球の形成過程と維持機構の解明に繋がると考えられる。 そこでIL-7タンパク質を可視化するため、IL-7-GFPノックインマウスを作製し、各臓器の組織切片の解析を進めた。その結果、特定のリンパ組織に存在する内皮細胞がIL-7を産生していることが明らかになった。さらに、その機能を調べるためIL-7コンディショナル・ノックアウト(cKO)マウスを作製し、内皮細胞特異的にIL-7を欠損させた。フローサイトメトリーを用いた表面抗原解析を進め、骨髄、胸腺、末梢リンパ組織および末梢血に存在するリンパ球を調べた結果、細胞数に顕著な変動があることが判った。また、骨髄におけるB細胞分化に与える影響を調べるため、未熟なpre-pro B細胞、pro B細胞、pre B細胞(FractionA~E)の各集団についても解析を行った。胸腺においては、T細胞の分化と成熟に関して異常の有無を検討した。さらに内皮細胞特異的IL-7欠損マウスから末梢T細胞を単離し、野生型マウスに移植することによって、成熟T細胞のhoming機能に影響を与えているかどうかを明らかにした。また、リンパ球細胞内Bcl2等の発現を測定し、内皮細胞が産生するIL-7がリンパ球のsurvivalに影響を与えているか検討した。以上の結果、内皮細胞から産生されるIL-7は、リンパ球の分化や組織内分布に著しく影響を及ぼしていることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度に計画していた、内皮細胞特異的IL-7欠損マウスの表現型解析は、ほぼ予定通りに実施することが出来、期待した成果が得られた。内皮細胞から産生されるIL-7は、リンパ球の分化や組織内分布を決定する重要な機能があることを示すことが出来た。従って次年度は計画通りに、内皮細胞由来IL-7と骨髄造血を担う免疫微小環境との関わりを検討し、末梢T細胞の維持や動態メカニズムの解析を進めることが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
内皮細胞特異的IL-7欠損マウスの骨髄において、細胞数の変動が大きいB前駆細胞と、IL-7を産生する血管内皮細胞との接触について、免疫組織染色法により定量的に検討する。血管の外側(骨髄に面する側)との接触の頻度が高く、有意差が見られた場合は、血管内皮がその亜集団の『niche』であることが示唆される。一方、リンパ球数の変動原因としては、より未分化な細胞であるCLP (common lymphoid progenitor) の数が変化していることも考えられるため、これに対するIL-7の影響も検討する。 また、リンパ管内皮細胞から特異的にIL-7を欠損させたマウスの解析も進め、リンパ管内皮由来IL-7と血管内皮由来IL-7について、機能に重複や特徴的な差があるかどうか検討する。次に内皮細胞特異的IL-7欠損マウスについて、各臓器内と血液中のIL-7タンパク質をELISA法により定量し、局在・循環しているIL-7タンパク質の量が減少していることを確かめる。更に、homingの機能に関連する様々なケモカイン受容体やインテグリンの発現に対して、内皮細胞由来IL-7が影響を与えているかどうか網羅的に解析を進める。またin vivoイメージング法を用いて、リンパ組織へのhomingの動態に変化があるかを検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は当該年度所要額の1割未満であるため、ほぼ計画通りの支出であった。次年度も当該年度同様の配分で支出を行う予定であり、翌年度以降に請求する研究費と合わせて直接経費の殆どを消耗品購入に充てる。特にフローサイトメーターを用いた解析に多種類の抗体が必要となる。また切片染色やin vivoイメージングにも多数の抗体を使用する。更に純系マウスを用いた細胞移植の実験を計画しているため、マウス個体購入に費用が必要となる。実験用器具として、チューブ、チップ、注射筒、組織切片用スライドガラスなどの消耗品を購入予定としている。また、実験全般に用いるアルコール類や、移植実験に用いる細胞内染色用蛍光試薬などが必要な実験試薬である。その他は、他大学の研究協力者との打ち合わせや、学会発表に旅費として充てる予定である。研究代表者が所属する京都大学ウイルス研究所には、本研究で必要となる大型機器がほぼ全て備えられており、その他必要となるin vivoイメージング装置については、大阪大学免疫学フロンティアセンターに研究協力を得ている。
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