研究課題/領域番号 |
24790497
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
冨尾 淳 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (10569510)
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キーワード | セーフコミュニティ / セーフティプロモーション / 地域防災 / 医療政策評価 |
研究概要 |
平成25年度は24年度に実施した文献レビューの結果をもとに、セーフコミュニティ(SC)活動に取組む自治体の協力を得て、同活動の主要な評価手段となる外傷サーベイランスの実施状況について分析を行った。13のSC認証/認証準備自治体の実施状況を分析した結果、既存の公的な統計データが外傷サーベイランスに用いられることが多く、その場合に入手可能なアウトカムが死亡など重篤な事例に限定されること、救急搬送や医療機関のデータでは、カバーする地域が自治体の行政区分と一致しない場合があり、評価指標として不十分であること、などを明らかにした。このため、特に医療を必要とするような外傷の予防を目的とする場合、個々の自治体に限定した活動に加えて、周辺の自治体との連携が必要であると考えられた。 また、SC認証準備自治体である秩父市において18歳以上の住民を対象に実施されたアンケート調査から、住民の防災活動への参加状況とそれに関連する要因について分析した。防災活動の参加経験者は36%であり、女性、若年者と後期高齢者、市の中心部に住む住民で防災活動の参加経験者の割合が低く、これらの集団を対象とした参加への働きかけが特に重要であると考えられた。この他、近所付き合いの程度がより親密な群および事故やけがの予防における地域内の協働を重視する群では、防災活動の参加経験者の割合が高い傾向がみられたことから、地域の安全を広く視野に入れた活動やソーシャルキャピタルの醸成など、まちづくり全般の中で災害対策を考えることも、今後の重要課題であると考えられた。 上記の他、SC認証自治体の小諸市において、55歳から84歳の中高年層を対象に介護予防活動に対する意識や参加状況、外傷の発生動向などに関するアンケート調査を実施し、現在分析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複数のSC認証/認証準備自治体において、SC活動の主要評価項目である外傷の発生状況に加えて、これまでの調査で住民の関心が高いとされる災害対策の状況や住民への情報提供のあり方など、安全に関連する包括的なアンケート調査を実施した。 また、秩父市ではアンケート調査の回答者の約半数から今後の調査協力への承諾が得られており、限定的ではあるが継続的な評価のためのパネル調査を実施する体制を確立した。小諸市では、一般的な行政統計に加えて医療機関における外傷患者登録、救急搬送、乳幼児健診を利用した未就学児の家庭における安全対策についての継続的なデータ収集が行われており、最終年度に向けて活動の評価が可能な体制が構築されている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に実施したアンケート調査結果の解析を引き続き行い、SC活動の課題を明らかにするとともに、フォローアップのアンケート調査を実施し、住民の安全・防災に関する行動変化について時系列での評価を行う。同時に医療機関における外傷患者登録や未就学児の家庭での安全対策のデータ等の外傷サーベイランスデータを用いて、健康アウトカムの時系列評価を行う。 また、SC認証自治体と近隣の自治体における外傷や犯罪、事故等の今年度までの推移を比較し、SC活動の短・中期的な効果を検証する。外傷による医療費については、レセプト情報の提供が得られない状況にあるため、医療機関における外傷登録データを利用して医療費への影響の推計を行う。 この他、SC認証自治体の担当者へのインタビューを行い、SC活動継続における政策上の問題点を抽出する。 以上の結果をもとにSCモデルの短・中期的な包括評価を行うとともに、標準的な評価指標を構築し、得られた結果を取りまとめ成果の発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度に実施したアンケート調査において、実施自治体の協力により調査票作成や調査票の送付にかかる費用を削減できたこと、および、小諸市で実施されたアンケート調査が年度末となったため、当初使用予定であった入力作業の費用が26年度に先送りになったことから、次年度使用額が発生した。 26年度は25年度の未使用分と併せて直接経費として約200万円を使用する予定である。内訳は以下の通りである。なお、25年度の未使用分については、当初使用予定であったアンケート調査の入力作業に使用することが決定している。 物品費(10万円):調査時の記録媒体、書籍・文献の購入費用として10万円を使用する。旅費(60万円):国内自治体の調査旅費として30万円、学会参加の旅費として30万円を使用する。謝金(10万円):医療機関等のアンケート調査、ヒアリング調査を行う際の謝金として10万円を使用する。その他(120万円):自治体が実施するアンケート調査、サーベイランスデータの入力作業として80万円、論文作成、学会発表用のポスター作成として30万円、学会参加費(国際学会1件、国内学会2件を予定)として10万円を使用する。
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