研究概要 |
傷病による社会的な費用を測定する手段であるCost of Illness(以下COI)研究は、限りある資源を使って提供される医療サービスの資源配分や、優先順位を決める場面で重要な役割を担う。 本研究では、国内外でのCOI研究の現況と政策への活用状況を明らかにするとともに、我が国の悪性新生物(肺がん、胃がん、大腸がん、前立腺がん、乳がん)、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、うつ病のCOIの将来推計を同一の方法で行う。また、各傷病のCOIに寄与する要因を明らかにする。各傷病のCOI推計値の時系列推移と、検診、新医療技術の導入等の各傷病に対応する医療政策との関連性も明らかにする。 COIは直接費用、治療によって失われた労働の対価である罹病費用、死亡に伴う人的資本の喪失である死亡費用から構成される。将来推計は以下の4つの方法で行った。すなわち、(1)健康関連指標を2008年の値で固定し人口構成の高齢化のみを勘案した方法(固定型推計)、(2)人口構成の変化に加え、受診率、平均在院日数などの健康関連指標の変化を線形近似により得た方法(線形型推計)、(3)対数近似により得た方法(対数型推計)、(4)健康関連指標毎に2つのうち最適な近似を選択した方法(混合型推計)、である。 例えば、我が国の前立腺がん(ICD-10:C61)COIの将来推計を行った結果、推計額は、固定型:3,429億円、3,796億円(それぞれ2014年、2020年の推計額。以下同様)、線形型:5,567億円、6,578億円、対数型:4,548億円、5,000億円、混合型:4,826億円、5,485億円であった。いずれのモデルでも2008年(2,756億円)に比してCOIは増加していた。
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