わが国における疾病別の社会的費用負担については、患者調査や社会医療診療行為別調査等に基づいた推計が行われているが、今後の人口の年齢構成の変化等を考慮した将来推計を行った研究は少ない。包括的な経済分析のためには、直接的な医療費に加えて、通院や入院に伴う間接的な経済損失や、早世に伴う生産性損失も考慮した疾病費用(Cost Of Illness:COI)の試算が必要である。本研究は、我が国におけるがんを中心とした疾病別のCOI推計とその将来推計を行い、それぞれの社会的経済負担の特徴を明らかにすることを目的としている。 COIは直接費用、罹病費用、死亡費用の3つの費用から構成される。直接費用には、疾病罹患によって直接生じる入院費、検査費等の医療費が含まれる。罹病費用は治療によって失われた労働の対価であり、疾病に伴う入院や通院のために失われる機会費用が含まれる。死亡費用は死亡に伴う人的資本の喪失であり、死亡した当人が死亡していなければ将来にわたって稼ぎ出したと考えられる所得の合計額として求める。 将来推計は、以下の4つの方法で行った。すなわち、(1)健康関連指標を2008年の値で固定し人口構成の高齢化のみを勘案した方法(固定型推計)、(2)人口構成の変化に加え、受診率等の健康関連指標の変化を線形近似により得た方法(線形型推計)、(3)対数近似により得た方法(対数型推計)、(4)健康関連指標毎に2つのうち最適な近似を選択した方法(混合型推計)である。
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