研究課題
がん治療における実施臨床では併用治療が基本となるが、薬物耐性(MDR)が弊害となることが多い。本研究では、薬物抵抗性を示すがん種を用いて、感受性の高い新たな化学療法薬の組み合わせを探ることを目的としており、(1)併用薬としてエピジェネティック治療薬を活用すること、(2)MDR克服の機序を探ること、(3)新しい治療薬の組み合わせが他のがん種へも応用が可能かどうか検討すること、を具体的な検討課題としている。本年度は、薬物抵抗性が高い難治性がんの代表例として腎細胞癌(RCC)を選択し化学療法薬とエピジェネティック薬の選択を検討した。まず化学療法薬には実際のRCCで薬物治療の第一選択薬となるsunitinib(Su)に着目し、Suの感受性を高める候補薬として脱メチル化薬の5-aza-2'-deoxycytidine、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬のsodium butyrate(NaBu)、さらにMDR因子として知られる薬剤排出トランスポーターの阻害薬としてP-gp/ABCG2 dual inhibitorであるelacridar(Elac)を選択し、Suとの併用効果を複数のRCC培養細胞株を用いた増殖試験によって検証した。その結果、NaBuとElacのみがSuとの相乗的な増殖抑制効果を得られた。一方、作用機序の検討も開始した。NaBuとSuは共に受容体型チロシンキナーゼ(RTK)下流の血管新生経路を抑制することが報告されており、同一の作用点を有する。腫瘍内の条件を考慮した低酸素条件の検討において、NaBu+Su併用によりRTK signal下流に存在する増殖因子Erk、Aktの活性が抑制される傾向がみられた。以上より、NaBu+Su, Elac+Suという新たな併用薬物の効果的な組み合わせが見出され、前者については作用点の一序としてRTKsignalに対する共同抑制が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
併用効果の得られる新たな薬物の組み合わせを見出し、またNaBu+Suに関しては一部の作用点の検討を進めることができた。一方2点めのElac+Suについては機序の検討に至らなかったので、次年度に引き続き評価を行う。
H25年度には、前年度に立ち上げた基盤条件を活用し、以下の応用実験を行う。1.併用効果の作用点の検討:24年度に見出されたNaBu+Suの併用効果については、RTK signalに着目した検討を開始したが、両者の関与についても共通のターゲット因子、経路に的を絞って追究する。また各種阻害剤やRNAiを活用して細胞死に対するターゲットの寄与度、エピジェネティックな機序によるものであるか検証する。Elac+Suの併用効果については、ElacのターゲットがP-gpおよびABCG2のいずれに寄与が大きいのか、トランスポーター阻害によるSu細胞内取込の上昇以外の作用の可能性があるのか、確認する。2.生体モデルの検討および他のがん種への応用:生体内の環境で薬物の効果が発揮されるか確認するため、マウスに移植したRCCに対する抗腫瘍効果を検討する。さらに、選出した薬物の作用態度を考慮し、RCCの他に難治性がん種で患者数も増加傾向にあるものとして悪性中皮腫や乳癌を新たに対象に加え、作用が一般化できるか検証する。最終的にこれらをまとめて、有用な薬物の組み合わせを提言する。
研究費の大部分は実験消耗品、試薬、実験動物費用等に充てる。その他は国内外への学会参加のための旅費、投稿論文作成のための諸経費に充填する。
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Biological & Pharmaceutical Bulletin
巻: 36 ページ: 564-573
10.1248/bpb.b12-00868
Journal of Pharmacological Sciences
巻: 118 ページ: 467-478
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http://www.p.chiba-u.ac.jp/lab/koreisha/index.html