研究課題
生体適合性の高いポリエチレングリコールを修飾したポリマーで構成されたドラッグデリバリーキャリアは非修飾のキャリアと比べてステルス性が高く血中滞留性も良いことが知られている。しかし、マウスに投与することにより抗体が作られるため、2回目以降の投与では血中滞留性が著しく落ちる。これはAccelerated blood circulation phenomenon(ABC現象)として知られており、ドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発において障害となっている。本研究は生体内共焦点顕微鏡を用いたABC現象の評価方法の確立、発生機序の解明と次世代DDSキャリア設計への寄与を目的とする。H24年度は生体内共焦点顕微鏡を用いた耳介血管の観察という非侵襲的手法によるABC現象の評価方法を確立した。H25年度はキャリアが肺へ集積することによる塞栓の形成、肝臓へのダメージ、また、腫瘍へのキャリア集積量の変化などABC現象における副作用の検討を行う予定であった。ここで、同じ場所での長時間イメージングが必要となるためフォトブリーチングへの対策が課題となった。フォトブリーチングとは蛍光色素に励起光を当てつづけることにより分子的に不可逆な変化が起こり蛍光を失う現象であり、集積したキャリアの定量性に問題が生じる。その原因の一つに活性酸素種の影響が知られている。ポリフェノールなどの抗酸化剤を用いたフォトブリーチングの抑制はHemmateenjadら(Analyst, 2012, 137, 4029)により行われており、今回はin vivo に応用した。その結果、N-アセチルシステインやビタミンE誘導体を事前投与することにより、フォトブリーチングを抑えることができた。この成果についてはARO学会で発表を行った。
4: 遅れている
本研究では、1. リアルタイムでのABC現象の評価および副作用の検証、2. ABC現象とナノキャリアの組成や構造との関係を調べる、3. ABC現象を回避するシステムの設計、の3点を行うことを目標にした。H24年度は生体内共焦点顕微鏡を用いたABC現象のリアルタイム測定方法の確立という目標を達成した。また、ABC現象によってsiRNAデリバリーにおけるsiRNAのインタクト性がどう変わるのかを検討するために、FRETを用いたイメージング方法を検討した。その成果について学会発表を行い、現在論文を執筆中である。H25年度は、ABC現象における副作用の検討を行うため、肺、肝臓、腫瘍などドラッグデリバリーキャリアの集積を同じ場所で長時間観察する必要がありフォトブリーチングが大きな問題となった。フォトブリーチングが起きるとキャリアの集積量を正しく評価することができないため、この問題を解決することが課題となった。抗酸化剤を用いたフォトブリーチングの回避策の開発のためABC現象における副作用の検討を行うという予定通りには行かなかったが、フォトブリーチングを抑制する撮影手法を開発したことは今後の研究に役立つと考えられる。また、最終年度に予定していた架橋度の違いやリガンドの有無によるABC現象の検討の一部をH25年度に行ったため、全体として遅れ気味ではあるが最終年度までには当初の目標を達成できると考えている。
今後はまず、ABC現象の副作用としての肺への集積と腎臓代謝の影響を検討する。肺の観察では、既に確立している陽圧呼吸管理下のマウスの開胸観察法を用いてABC現象が肺に与える影響、特に間質性肺炎との関連について調べる。H24年度のFRETを用いたsiRNAデリバリーの研究によると腎臓での観察において尿細管で分解されたsiRNAを確認した。今まで使用している共焦点顕微鏡では腎臓表面から数10 umくらいの深さまで観察できるが、血液の濾過を行っていると考えられる糸球体はより深部にあるため観察が行えなかった。しかしH25年度、当該研究室に二光子励起顕微鏡が導入されたので、腎臓の糸球体観察が可能になり、より詳細なデータが得られると考えている。腫瘍への集積に与える影響については、H25年度に確立したフォトブリーチング抑制法と二光子励起顕微鏡を用いることによって、深さ方向での集積性の違いなど、より詳細な観察ができると考えている。また、これまでに得られた知見を踏まえて、申請者が所属する研究室で開発された様々なナノキャリアや市販のDDS製剤を用いてABC現象を検討し、ナノキャリアの組成や構造との関係を調べる予定である。
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