本研究では、抗うつ薬反応性の個人差の原因因子として末梢血白血球のDNAメチル化を想定し、個人差を予測しうるDNAメチル化部位を特定することを目的としている。 昨年度は少数例でのスクリーニング解析を行い、脳由来神経栄養因子(BDNF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、セロトニントランスポーター(5-HTT)、セロトニン1A受容体(5-HT1A)遺伝子の上流領域から、抗うつ薬反応性に関連するCpG領域の候補を特定した。特定された遺伝子とCpG領域数は以下の通り。フルボキサミン:BDNF 6CpG、5-HT1A 1CpG、ミルナシプラン:5-HTT 9CpG、パロキセチン:BDNF 3CpG、5-HTT 2CpG、GDNF 1CpG。 本年度は、パロキセチンにおけるBDNF 3CpGと5-HTT 2CpGについて、症例数を増やして検討を行った。パロキセチン服用患者100例のうち、投与前と投与後4週のハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)情報が得られ、さらにDNAメチル化比率を解析できた症例数は60であった。各症例の末梢血DNAメチル化解析については、メチル化感受性制限酵素-リアルタイムPCR法によりBDNF 3CpGと5-HTT 2CpGのメチル化比率を求めた。計5CpGについて、パロキセチン反応性に関連するCpGはなかった。しかし、抗うつ薬反応性に大きな影響を与えるとされる5-HTTLPR多型別に解析を行うと、BDNFのメチル化とパロキセチン反応性との間に相関が認められた。 これまで、疾患とDNAメチル化との関連は報告されているが、薬物反応性・副作用発現とDNBAメチル化との関連は報告されていない。本成果は、今後抗うつ薬個別化適正医療を推進していく上で重要な成果となると考えられる。
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