研究課題
若手研究(B)
「インフォマティクスを活用した血中タンパク質・ペプチドリストよりの疾患マーカー探索」を目標にターゲット疾患の選定・検体収集と、目標を達成するための基盤技術の構築を行っている。定量マーカーを確立する上では、定性的にある・無しの判断ができる絶対的なコントロールの存在するマーカーのほうが技術開発を確実に進められるため、ターゲットタンパク質・ペプチドは遺伝性疾患とも関係があるものを重点的な対象として症例を集めている。具体的な一例としてはある臓器の疾患マーカーの候補として現在、血中タンパク質リストに複数の断片が掲載されているXというたんぱく質(定量)をターゲットとしているが、当面の検討では遺伝的にXを欠くYという疾患患者検体でまず定性(いわばネガティブ・コントロールとして絶対的に存在しない事の証明)ができるかの検討を行う。そのため、Xが新規マーカーとなりうるかの十分な検討はこれからである。このような重点化により、疾患Yの確定的検査を遺伝子検査無しに迅速に行える可能性も出てくる。反面、基盤技術に関しては血中Apolipoprotein E (ApoE)をターゲットに、遺伝子の情報なしにほぼ全長を数ulの微量血清よりアミノ酸レベルで質量分析計を用いることにより再シーケンスできること、これによりアルツハイマー病の最大のリスク要因であるApoE4アイソフォーム含めApoEのタイピング(各アイソフォームのホモ/ヘテロ検出)・半定量を行うことに成功した。このことにより、任意のターゲットたんぱく質・ペプチドの定性的・半定量的な検出が可能である事と同時に、血清のみからたんぱく質アイソフォームのタイピングを行える事を示した。アルツハイマー病の例のように検査対象たんぱく質のタイピングが臨床的意義を持つ例はしばしばあり、このような応用の可能性も示せた。
2: おおむね順調に進展している
「血中タンパク質・ペプチドリストよりコンピューターとインフォマティクスにより疾患マーカーたりうる蓋然性のより高いペプチド断片の選出を容易にし、特定の疾患に囚われず臨床的な有用性を持つと想定される新規疾患マーカーを探索・同定し、臨床検体を用いた検証を行い臨床検査としての確立を目指す事を目的とする。」と交付申請書では述べた。リストより新規疾患マーカー候補を抽出するのは比較的容易いのに対し、候補を検証するのに適した疾患の患者さんが今年度に都合よく多人数受診されるかはどうしても偏りがあり、疾患により臨床検体の収集がやや遅れている現状にある。しかしながら、申請者の所属する検査部は多彩な疾患の検体が集中する場所であるため、引き続き検体の収集に努めたい。検証に必要な基盤技術の確立は予想より進捗し「研究実績の概要」に述べた通りApoEをモデルに定性・半定量としては確立させることができた。
質量分析計による測定で、任意のタンパク質・ペプチドについて定性・半定量は比較的容易に達成できそうであるが、厳密な定量はかなりの条件検討が必要になる。現時点では半定量までは可能であるので、マーカー候補を検討するのに適した患者さん検体が収集できた疾患群より、まずは半定量で検討を進めていきたい。そして有望な物についてはSRM/MRMによる定量を検討していきたいと考えている。また、開発した技術はアミノ酸シーケンス的に用いる事でターゲットたんぱく質のタイピングに活用できる事が判明したので、そのような面からの臨床応用も検討したい。
質量分析計の消耗品、ターゲットの特異性を検証したり質量分析を工夫する(immuno-MS)ための抗体製品、検体保存のための費用、学会参加による情報収集といったことに使用を計画したい。とくに抗体製品であるが良いロットの確保が実験の成否に影響するため、ある程度のまとめ買いが予想され、16万円余を次年度使用額とした。
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