研究課題
不育症とは、妊娠はしても流産、子宮内胎児死亡、新生児死亡などを繰り返して生児が得られない場合をさす。本研究では、妊娠維持に重要な役割を果たす因子として注目されているヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)が、これまで報告されていた免疫調節作用、抗酸化作用に加えて抗血栓効果を胎盤にもたらし、妊娠予後を改善する可能性について検討する。平成24年度はトロフォブラストのモデルであるBeWo細胞における凝固・線溶系関連因子発現の動向がHO-1発現による調節を受けるかどうかについて検討した。平成25年度は胎盤のもうひとつの主要な構成成分である血管内皮細胞(HUVEC)を用いて検討を行った。まず、HUVECを通常どおり培養した場合と、TNF-αによる炎症性刺激を加えた場合における、組織因子(TF)およびプラスミノーゲンアクチベーターインヒビタータイプ1(PAI-1)の発現を検討した。次に、tricarbonyldichroloruthenium (II) dimer (CORM-2)をあらかじめ培地に添加し、HO-1がヘムを分解した際の代謝産物である一酸化炭素(CO)を発生させた後、TNF-αを添加した場合におけるTFおよびPAI-1の発現を検討した。その結果、HUVECにTNF-αを添加するとTFおよびPAI-1の発現が著しく増加するが、あらかじめCOを発生させておくと、TFおよびPAI-1の発現が正常レベルに是正された。さらに、TNF-αの存在下ではp38MAPキナーゼおよびERK1/2、JNKのリン酸化およびNF-κBの核内移行が促進されるが、あらかじめCOを発生させておくと、これらのシグナル伝達経路の活性化が正常レベルに是正された。以上の結果より、炎症性刺激下におけるMAPキナーゼおよびNF-κBシグナル伝達経路の活性化をCOが抑制し、TFおよびPAI-1の発現増加を抑制すると考えられた。このことは不育症や妊娠高血圧症候群でしばしば観察される過凝固状態に対してHO-1およびCOが有効な治療薬となる可能性を示すものである。
2: おおむね順調に進展している
トロフォブラストおよび血管内細胞それぞれにおいて、炎症性刺激下における血液凝固関連因子の発現プロファイルおよびHO-1による影響を明らかにすることができた。また、血管内皮細胞ではHO-1によるTFおよびPAI-1の発現調節の機序についても明らかにすることができた。
おおむね変更はない。引き続き、HO-1により発現調節を受ける血液凝固関連因子について検討するとともに、HO-1がトロフォブラスト表面に存在するリン脂質を介した血液凝固進展に影響を与えるかどうかについて検討する。
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Thromb Res.
巻: 132 ページ: e118-123
10.1016/j.thromres.2013.06.001