研究課題
若手研究(B)
感染症の根本的な治療は抗菌薬・抗ウイルス薬により行われる。しかしながら薬剤耐性の微生物による感染症であることも多い。適切な治療薬を速やかに選択するために、時間を要する感受性試験ではなく耐性因子をターゲットとした薬剤耐性微生物の迅速検出法の構築を目指し耐性因子を認識する抗体の取得およびその応用方法の検討を進めている。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSAの検出に関しては耐性因子であるPBP2aに特異的な抗体を用いてイムノクロマトグラフィーを作製した。菌体をアルカリ-中和処理することによって抗原を可溶化し検出感度を測定し、平成24年度に論文として発表した。今後、現時点の感度で応用可能な臨床検体を想定し血液培養の模擬検体および臨床検体を用いた検体からの直接検出についての検討を行う予定にしている。臨床現場でMRSA同様に高い耐性割合を示すコアグラーゼ陰性ブドウ球菌に関しても検討を行うべく菌株の収集を進めている。メタロベータラクタマーゼIMP-1産生菌については多剤耐性緑膿菌臨床分離株からPCRによってIMP-1の遺伝子保有を調査し終えたので、今後感度・特異度の検討を進めるところである。タミフル耐性インフルエンザウイルスの検出についてはノイラミニダーゼの変異か所(H274Y)を認識する抗体を用いて耐性型ウイルスの検出を行ったが核タンパク質に対する抗体に比較して抗体価が低いため抗体の精製やウイルスの濃縮を行い感度の測定を行う予定である。臨床的に迅速な診断が望まれる薬剤耐性微生物の検出に関して臨床分離株を使っての実証を順調に進めている。
2: おおむね順調に進展している
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSAの検出に関してはターゲットとしている耐性化因子PBP2aに対する特異的抗体を作製・精製し、イムノクロマトグラフィーを構築した。簡易・迅速なアルカリ-中和処理による可能な検出感度を定量化し、本平成24年度に論文として発表した。臨床現場で黄色ブドウ球菌と同様に耐性割合が高いコアグラーゼ陰性ブドウ球菌に関しても原理的には検出可能なはずであるため同様に検討を行ったが、MRSAと同じ菌体処理方法では検出できるものとできないものが存在することが明らかとなった。カルバペネムを含むベータラクタム系抗菌薬を不活化するメタロベータラクタマーゼは多くの型が報告されているが国内ではほとんどがIMP-1型であり、抗IMP-1抗体を作製し評価を進めてきた。IMP-1は細菌の外膜と内膜の間隙にあるペリプラズムに存在するため外膜を壊して抗体を中に入れるかIMP-1を外膜から外に出す必要がある。処理方法として外膜に穴をあける薬剤や有機溶剤あるいは界面活性剤の検討から、アセトンによる固定化とその後の弱い界面活性剤の使用が後行程に悪影響を与えないことが分かった。これと並行してこれまでに当研究室に保管されている多剤耐性緑膿菌臨床分離株294株についてメタロベータラクタマーゼ産生菌のピックアップおよびその型別を行いIMP-1の遺伝子の保有を調べたところ182株(61.9%)が該当した。変異ペプチドに対するポリクローナル抗体によりタミフル耐性型インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼの変異か所(H274Y)の検出が可能であったことから、モノクローナル抗体の作成および腹水からのIgGの精製を行った。ウイルス抗原に対する反応性をみたが、核タンパク質に対する抗体を用いたELISA結果に比べるとノイラミニダーゼに対する抗体では殆どバンドが得られず、感度が低いことがわかった。
MRSA検出のターゲットとしている耐性化因子のPBP2aは膜タンパク質であり黄色ブドウ球菌の分厚い細胞壁の内側に存在しているため抗原を遊離させるためには細胞壁を分解する必要がある。アルカリ-中和処理では抗原の遊離が十分でなく、イムノクロマトグラフィーのような簡易迅速試薬への応用するためには菌数が多くなければならない。しかしながら、臨床応用を考える上で試料調整は簡易・迅速であることが望ましく、現時点での条件下でも検出可能な臨床検体であると考えられる血液培養陽性ボトルについて、模擬および臨床検体での検討を行う予定である。また、MRSAと同様に検体数の多いメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌MRCNSにも適応範囲を広げるために、MRCNSの収集を行い、抗原溶出方法を再検討する。メタロベータラクタマーゼ産生菌の検出については当研究室に保管されている臨床分離多剤耐性緑膿菌株のうちPCRにてIMP-1の遺伝子の保有が認められた株について今後IMP-1の産生量などを調べ、感度・特異度の検討に用いる。タミフル耐性型インフルエンザウイルスノイラミニダーゼの検出はリアルタイムPCRによるウイルス抗原量の確認と検出限界のウイルス量の定量をおこない、臨床応用が可能かどうか検討を行う。イムノクロマトグラフィーやELISAに応用するためには抗原を補足するための抗体も必要であるが、得られている抗体価が低く共発現したタグタンパク質に対する抗体価が高いと予想されるため、ポリクローナル抗体からノイラミニダーゼに対する抗体のみの精製を試みる。しかしながらこのタグをつけないと全長での発現系ができなかった経験があるので、部分タンパク質の発現系の構築を試み、ノイラミニダーゼへの抗体価を高めることとを目標とする。
概ね予定通り推移しているため、研究計画に基づいて消耗品の購入などに研究費の多くを使用させていただく。新たな知見を得るためおよび本研究で得られた知見について学会発表するために旅費を使用させていただく。研究成果を広く発信するために論文発表を行うため、必要な英文校正や投稿料にも予算を使用させていただく予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件)
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