研究課題/領域番号 |
24790551
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山田 景子 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (00402561)
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キーワード | 薬剤耐性 / 検出 / 抗体 / 感染症 / MRSA |
研究概要 |
薬剤耐性菌による感染症を薬剤感受性試験ではなく耐性因子をターゲットとした検出方法により迅速に検出する方法の構築を目指している。本研究により薬剤耐性微生物が迅速に検出され、その耐性微生物に適切な治療薬が早期に選択されることが期待される。具体的には耐性因子を認識する抗体の取得およびその応用方法の検討を進めている。 前年度に作成した、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSAの耐性因子PBP2aを検出するイムノクロマトグラフィーの評価を行った。MRSAとメチシリン感受性黄色ブドウ球菌MSSAの比較については昨年度に順調な結果が得られたが、MRSA同様に臨床現場で高い分離頻度を示すコアグラーゼ陰性ブドウ球菌に関しては、MRSAと同じ検体処理方法では耐性菌(MRCNS)が偽陰性になることが本年度明らかとなった。今後、抗原の溶出方法あるいは抗原発現量について検討を行うこととした。 メタロベータラクタマーゼIMP-1産生菌については緑膿菌を中心に検出感度の検討を行っていたが、同様の抗IMP-1抗体を応用した先行論文が発表されたため、今後について再考が必要と考えられた。 タミフル耐性インフルエンザウイルスの検出については、ノイラミニダーゼの変異か所(H275Y)を認識するモノクローナル抗体を得た。組換えタンパク質の検討では耐性型組換えノイラミニダーゼを特異的に検出できた。臨床分離された耐性型および感受性型ウイルス株を用いた検討では、MDCK培養細胞由来のウイルス株について、濃縮操作を行うことで耐性型ウイルスのみの検出が可能であった。応用する上では、補足するための抗体が必要であるため、抗原として有効な領域についてのタンパク質発現系を構築した。 臨床的に迅速な診断が望まれる薬剤耐性微生物の検出に関して、臨床分離株を使っての実証を順調に進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSAを検出するイムノクロマトグラフィーを構築し、MSSAと区別して検出できることを報告した。臨床現場で黄色ブドウ球菌と同様にβ-ラクタム耐性の割合が高くなっているコアグラーゼ陰性ブドウ球菌CNSに関してもメチシリン耐性MRCNSと感受性であるMSCNSを収集して検討を行った。耐性因子PBP2aは同じなのでMRCNSも検出可能なはずであるが、MRSAと同じ菌体処理方法ではMRCNSの中に検出できるものとできないものが存在することが明らかとなった。この差異を詳細に検討した。細胞壁を構成しているアミノ酸の種類が一部異なり、アルカリ処理に対する感受性が異なる可能性と、抗原の発現量が異なることなどが考えられたためその詳細を検討中である。 カルバペネム耐性にかかわるβ-ラクタマーゼIMP-1に対する抗体を作成しIMP-1産生菌株の検出は順調に行われた。しかしながら、国立国際医療研究センター切替らによるイムノクロマトの開発及びその応用の発表(Tomoe Kitao et. al, J Microbiol Methods. 2011 87(3):330-7)を受け、計画を再考察することとした。 タミフル耐性型インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼの変異か所(H274Y)に対するモノクローナル抗体をマウス復水より精製した。大腸菌で作成した感受性型組換えノイラミニダーゼタンパク質には反応せず、耐性型組換えノイラミニダーゼタンパク質に対して反応性がみられた。MDCK細胞感染培養上清由来のウイルス抗原に対する反応性は昨年報告したとおり、核タンパク質に対する抗体に比較して弱いながらも超遠心による濃縮およびBSAの除去により、ELISAにて感受性型ノイラミニダーゼのウイルスには反応は見られず、耐性型ノイラミニダーゼをもつタミフル耐性型ウイルスに対しては反応を認めた。
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今後の研究の推進方策 |
MRSAおよびMRCNS検出のターゲットとしている耐性化因子のPBP2aは膜タンパク質でありブドウ球菌の分厚い細胞壁の内側に存在しているため抗原を遊離させるためには細胞壁を分解する必要がある。MRCNSの検出率が低かったことに関しては、黄色ブドウ球菌とは細胞壁を構成するアミノ酸が違うため、アルカリ-中和処理では抗原の遊離が十分でない可能性、あるいはMRCNSでは抗原の発現量が低い菌株の割合が多い可能性などを詳細に検討し、検出感度を上げるつまり、偽陰性を減らすための検討を行う。具体的には細胞壁溶解酵素処理やβ-ラクタム系抗生物質によるPBP2a抗原の発現誘導などである。現時点での条件下でも検出可能な臨床検体として血液培養陽性ボトルについて、模擬あるいは臨床検体での検討を行う予定である。学内の倫理審査を経ておこなう。 タミフル耐性型インフルエンザウイルスノイラミニダーゼの検出はリアルタイムPCRによるウイルス抗原量の確認と検出限界のウイルス量の定量をおこない、臨床応用が可能かどうか検討を行う。イムノクロマトグラフィーやELISAに応用するためには抗原を補足するための抗体も必要であるが、得られている抗体価が低く共発現したタグタンパク質に対する抗体価が高いと予想されるため、作成した部分ノイラミニダーゼタンパク質を抗原としてノイラミニダーゼに対するポリクローナル抗体を精製しELISA等の検出系の構築を目指す。
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