研究課題
うつ病発症の原因には遺伝的素因に加え、ストレスなどの浸襲による慢性炎症が関わっている。炎症を持続させ、慢性化させるメカニズムの一つに炎症性サイトカインにより誘導されるindoleamine 2,3-dioxygenase 1 (IDO1) の関与が示唆されている。IDO1はL-トリプトファン(TRP)代謝経路の律速酵素であり、その代謝産物は様々な組織・細胞でアポトーシスをはじめ、フリーラジカルの産生など多様な炎症反応に関わっている。神経系ではIDO1酵素誘導によるセロトニンレベルの低下がうつ病を含む精神疾患の発症に関与していることが示唆されている。本研究は、慢性炎症によるうつ病発症の原因を解明し、うつ病の新たな診断・治療法を開発することを主たる目的として行った。本研究により、1)慢性炎症モデルマウス(持続発現マウス)におけるうつ病様行動の動態、2)このモデルにおける脳内のIDO1酵素活性とTRP代謝産物の動態、3)TRP代謝酵素の遺伝子欠損マウスを用いて、TRP代謝酵素の阻害によるうつ病様病態への影響を検討、4)肝炎患者の治療開始後、同患者から得た血清中のTRP下流代謝産物の経時的な測定、を明らかにした。本研究によりIFN治療中のC型肝炎患者、また、IFN高発現マウスにおいて、TRP代謝産物動態に変動が見られ、特に3-hydoxykynurenine (3HK) の増加が顕著であった。さらに、IFN高発現マウスでうつ様傾向が確認でき、TRP代謝産物動態の変化、特に3HK増加が認められた事により、IFN誘発性うつ発症メカニズムの詳細な解析が期待される。また、単独の代謝産物動態と比較して、複数のTRP代謝産物を組み合わせたインデックスでより大きな変動が見られることから、インデックス化によるうつ発症予測指標の臨床的意義の解明は有用であると考えられた。
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