研究課題
アミロイドーシスは、現在、日本に約500 万人以上の患者がいる巨大な難治性の疾患群である。本疾患は、詳細なアミロイド形成機構が不明であることから、未だに根治的な治療法や早期診断法がない。本研究では、アミロイドーシスの根治治療法と早期診断法の確立を目標とし、アミロイド形成におけるclusterin の役割の解析、ならびに質量分析装置を用いた新規解析法を駆使し、新たなアミロイド線維に共存し線維形成に対して阻止的に働く蛋白質を網羅的に解析し、治療分子や早期診断マーカーの開発を行う。計画初年度である平成24年度は、clusterin の新規早期診断マーカーとしての可能性を探索するために、FAP患者血清のclusterin 濃度を測定した。その結果、FAPでは、健常者に比べ、血清clusterin 濃度の有意な増加を認め、さらに、重症度ともに、減少する傾向も確認した。また、FAPキャリアでも血清clusterin 濃度が上昇している傾向が示された。アミロイド沈着部位に存在する新規アミロイド共存蛋白質を探索するために、代表的な全身性アミロイドーシス(FAP 20例、SSA 5例、ALアミロイドーシス10例、AAアミロイドーシス、5例)の剖検、生検ホルマリン固定組織をLC-MS/ MSを用いて解析した。結果として、上記のclusterin以外にもアミロイド形成への関与が疑われる数種の新規アミロイド共存蛋白質を同定した。その中には、蛋白質の処理に関与するヒートショックプロテイン(HSP)やユビキチン関連蛋白質、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)が含まれていた。これらclusterinやHSP, MMPはFAPの早期診断マーカー、更には治療薬の候補になり得る可能性をもつ。
2: おおむね順調に進展している
clusterin の新規早期診断マーカーとしての可能性の探索に関して、初年度は、FAPにおいて血清clusterin 濃度が健常者群に比べて、優位に増加しており、重症度とともに減少する傾向が確認された。さらに、FAPキャリアにおいても、血清clusterin 濃度は、増加傾向を認め、早期診断マーカーとしての可能性を示すことが出来た。また、clusterin のアミロイド線維形成への影響に関して、各種アミロイドーシスのアミロイド沈着部位の解析から、clusterin がFAPだけでなく、ALアミロイドーシス、AAアミロイドーシス、SSA、角膜アミロイドーシスにおいてもアミロイドと共存していることが明らかとなり、各種アミロイド線維の形成への関与が疑われた。アミロイド沈着部位に存在するアミロイド共存蛋白質の探索に関しては、各種アミロイドーシス患者のホルマリン固定組織を用いたLC-MS/MSによるプロテオーム解析から、アミロイド形成阻止に働く可能性のある各種蛋白質(HSP、ユビキチン関連蛋白質、MMPなど)を同定できた。また、FAPにおいて、アミロイドの沈着量と比例して有意に増加する診断マーカーとして期待できる細胞外分泌蛋白質も同定できた。以上のように、clusterin 以外にも治療薬および早期診断マーカーとしての候補蛋白質を同定することができたため順調と考えられる。次年度の研究に向けての準備が整った。
次年度は、前年度の計画を継続して行うと同時に、更に研究を発展させ、clusterin および新規アミロイド共存蛋白質による治療法および早期診断マーカーの開発に向けて研究する。FAP以外のアミロイドーシスでもclusterin の新規早期診断マーカーとしての可能性を探索するために、AL、AA、SSAの患者の血清clusterin 濃度を測定し、健常者と比較する。さらに、血清clsuterin 濃度を迅速かつ汎用的に測定できるように、自動分析装置によるclsuterin の測定法を確立する。また、clusterin の治療薬としての可能性を探索するために、in vitroおよびin vivo の実験系でclusterin のアミロイド線維形成に与える影響を評価する。前年度のLC-MS/MSによる組織解析の結果から、明らかとなった蛋白質のうちアミロイド線維形成に対して阻止的に働く可能性のある蛋白質および、早期診断マーカーとなる可能性のある蛋白質にフォーカスを当て更なる検討を実施する。治療薬の候補となる蛋白質に関しては、in vitroでのチオフラビンTなどを用い、アミロイド線維形成に与える影響を評価する。また、早期診断マーカーの候補蛋白質に関しては、アミロイドーシス患者と健常者血清における発現の違いをELISAにて定量的に比較検討する。
FAP以外のアミロイドーシスにおいても、血清clusterin の早期診断マーカーとしての有用性を検証するために、ELISA kit を購入する。また、clusterin の自動分析装置による測定法を確立するために、抗clusterin抗体および二次抗体を購入する。また、in vivo において、clusterin のアミロイド線維形成に与える影響を評価するため、実験動物の購入費や飼育費に研究費を用いる。前年度にアミロイド沈着組織からLC-MS/MSにより同定した蛋白質に関して、アミロイド線維形成への影響をin vitroで評価するために、リコンビナント蛋白質を購入する。また、アミロイド沈着に比例して増加していた細胞外分泌蛋白質に関して、新規早期診断マーカーとしての有用性を検証するために、候補蛋白質のELISA kit を購入する。当初の計画どおり、以上に示した研究に次年度の研究費を用いる。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (4件)
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