研究課題
本研究では、血管傷害時の内膜肥厚形成において主要な役割を果たすPDGF-BBの刺激によってASMCが極性形成に至るEpac1を介した細胞内シグナル伝達経路を解明し、現実的にEpac1の作用を抑制し内膜肥厚を抑制する分子について検討することを目的として研究をおこなっている。本年度はEpac1 Knockout(KO)マウスの血管平滑筋初代培養細胞(ASMC)を用いてPDGF-BBからASMCの極性形成に至るEpac1を介した細胞内シグナル伝達経路を明らかにし、Epac1の作用を抑制しうる分子を見出すことを目指した。細胞極性には細胞内カルシウムが重要な働きをするが、Epac1はRapを介して細胞内カルシウムを増加させることが報告されている。そこでまず、Epac1がRapを介して細胞極性形成を促進しうるか確認するため、SiRNAでASMCのRapの発現を抑制しPDGF-BBで刺激したところ、RapのアイソタイプのうちRap1aを抑制した細胞で極性形成が有意に減少した。続いて、PDGF-BBで刺激しASMCの細胞内カルシウム活性を測定した結果、Epac1KOマウスのASMCでは、増加が有意に抑制されていた。また、野生型マウスのASMCを用いて、カルシウムの下流で極性形成に関与するCalcineurinを阻害したのち、PDGF-BB刺激しASMCの極性形成を確認したところ、有意に抑制された。さらにCalcineurin下流で細胞極性に重要な働きをするCofilinの活性化をASMCにて確認したところ、Epac1KOマウスでは、PDGF-BB刺激時のCofilinの活性化が有意に抑制されていた。以上より、血管傷害時のPDGF-BB刺激はEpac1/Rap1a/Calcineurin/cofilinという経路を介してASMCの極性化を促すことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
研究の目的として挙げた、初代培養細胞を用いた細胞内カルシウム活性の測定および、初代培養細胞を用いたシグナル伝達経路の解明に関して研究が終了し、結果を得ているため。
内膜肥厚抑制効果のin vivoでの検証24年度の検証により発見された分子の阻害剤(Epac1阻害剤およびCyclosourinA)を実際に野生型マウスに投与し血管を傷害することで、分子の抑制により血管傷害後の内膜肥厚が抑制されるかを検証する。方法:分子阻害剤を投与した野生型マウスの大腿動脈にラージワイヤーを挿入して血管壁を傷害し、血管傷害モデルを作成する。傷害1週間後に麻酔下で傷害組織を採取しmRNAを抽出しSYBR Greenを用いた定量的RT-PCRにてEpac1発現量を測定し、投与していない傷害モデルマウスでの発現量と比較する。さらに、傷害3週間後に麻酔下で傷害組織を採取し、病理学的方法にて内膜肥厚部組織面積/平滑筋層面積および血管内腔面積を算出し内膜肥厚形成度を投与の有無で比較する。予想される結果:分子阻害剤を投与したマウスでは傷害組織でのEpac1の発現が低下し、内膜肥厚形成が抑制されることが予測される。
定量的RT-PCRに用いる試薬、および組織を病理学的手法で評価するための染色液、抗体、またモデルマウスを作成するための手術道具、消耗品。加えて論文作成費用と学会発表費用に使用する予定である。
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PLoS One.
巻: 7 ページ: e36724
10.1371/journal.pone.0036724.