研究課題/領域番号 |
24790591
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
岩澤 聡子 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (10570369)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 8-iso-PGF / 鉛 / 産業疫学 / 量反応関係 / 量影響関係 / 重金属曝露 / 酸化ストレスマーカー / 8-OHdG |
研究概要 |
二次鉛精錬工場における男性作業者27名(年齢47.8歳±14.1歳、喫煙者は14名)に対して全血中鉛濃度(BLL: blood lead level)と尿中デルタアミノレブリン酸(δ-aminolevulinic acid: ALA)、および尿中に含まれる酸化ストレスマーカーで、DNAの酸化損傷の指標である8-hydroxy-2’-deoxyguanosine (8-OHdG)、細胞膜やLDLに含まれるアラキドン酸の過酸化指標である8-iso-prostaglandin F2α(8-iso-PGF)との関連を検討した。 BLLとの相関係数はALA、8-OHdG、8-iso-PGFで0.659、0.696、0.692であり、BLLによる3分位により9人ずつ3群に分けたそれぞれを群間比較したところ、いずれもBLLの上昇に応じ有意に値が上昇した。またそれぞれのカットオフ値を設定しprevalenceを求めたところ、これも同様の傾向を有意に認め、鉛1μg/dLあたりのこれに対するオッズ比は、8-OHdGで1.078、8-iso-PGFで1.067であった。よってこれらは酸化ストレスマーカーとしてBLLの上昇に対し有意な変化を示すと考えられる。 BLLと、DNAの酸化ストレスマーカーである8-OHdGとの量依存性の関連は、8-OHdGが鉛による変異原性・発がん性の早期指標となる可能性を、また膜脂質の酸化ストレスマーカーである8-isoPGFとの量依存性の関連は、8-iso-PGFが鉛による神経系障害をはじめとする腎障害、造血障害といった様々な症状の早期指標となる可能性を示唆している。一方、対象人数が少ない、基礎疾患や背景の影響を考慮していない、複合曝露を考慮できていないといった理由から、さらなる研究が必要と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、下記の研究目的に由っており、おおむね順調に進展していると考える。 難溶性インジウム化合物と肺障害(インジウム肺)の因果関係が確立したが、その自然史は明らかになっていない。その自然史に活性酸素が関与していることが疑われる。イソプラスタン類のうち、リン脂質で直接的に活性酸素により過酸化を受け合成する8-iso-prostaglandin-F2α(以下8-iso-PGFと略)は、生体内の酸化ストレスマーカーとして、特に高感度の指標である。本研究は、インジウム曝露作業者さらには、他の重金属である鉛、カドミウム曝露作業者を対象(曝露)群とし、コントロール群との比較において、重金属曝露と酸化ストレスマーカー尿中8-iso-PGF との量影響関係を明らかにすることを目的とする。 現在までに、鉛曝露作業者において金属曝露と酸化ストレスマーカー尿中8-iso-PGFとの量影響関係を明らかにすることができた。ゆえに、おおむね順調な達成であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後、インジウム曝露作業者さらには、他の重金属である鉛、カドミウム曝露作業者を対象(曝露)群とし、コントロール群との比較において、重金属曝露と酸化ストレスマーカー尿中8-iso-PGF との量影響関係を明らかにすることを目的とし、研究を進める。 我々は、すでに鉛曝露作業者、ニッケルカドミウム電池工場作業者のフィールドを有する。インジウム取扱い工場、鉛曝露が比較的高い鉛蓄電池工場、ニッケルカドミウム電池製造工場において疫学調査を実施する。 曝露指標として、血清インジウム濃度(In-S)、血中鉛、血中Cd、尿中Cd測定および曝露作業歴を調査する。影響指標として尿中8-iso-PGF および尿中8-OHdG、尿中δ-アミノレブリン酸、尿中β2-ミクログロブリン、血清中KL-6、生活習慣病関連項目を調査する。交絡因子として生活習慣(喫煙、飲酒等)、既往・現病歴等を自記式調査票と問診により調査する。尿中8-iso-PGF濃度は固相抽出-HPLC法を、尿中8-OHdG濃度はカラムスイッチングHPLC-ECD法を用い測定する。 統計解析は、曝露の有無による解析のほか,曝露群を曝露評価によって2~3群に分類した解析,曝露指標を連続変数とした解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
未使用額の発生は、購入予定であった試料分析消耗品について、効率的な物品調達を行うため、部分的に翌年度にまとめて消耗品購入することにしたためである。次年度の研究費は、大部分を分析消耗品費用、健康影響項目測定費用、対象工場までの旅費に充当する予定である。
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