研究実績の概要 |
震災時に福島県下に居住していて、かつ保護者の同意が得られた9名の児童から乳歯の提供をた。測定に先立ち、乳歯の表面を超純水にて洗浄した。次に試験台に乳歯を固定し、その唇舌的長軸に沿って唇側の遠心的中央 の縦断切片を硬組織切断機により作成し、これをLA-ICPMS分析に供した。LAはNWR-193(ESI社)を、またICPMSにはiCAP Qc(Thermo Fisher Scientific社)を用いた。固定した縦断切片の表面を光学顕微鏡下で観察したのち、乳歯断面の全領域に対して一辺75μmの矩形レーザーをラスターしてサンプリングを行い、ICPMSで元素量の測定を行った。 縦断切片の残り半分は硝酸と過酸化水素により分解し、溶液導入法によるICPMS測定(Elan DRC2, Perkin Elmer 社)を行った。得られた9検体について、まず、溶液導入法によるICPMSでの乳歯中元素濃度測定を行った。つづいて、LA-ICPMSでの分析を行った。適切な標準物質が得られていないため、相対的なICPMSの信号強度分布で評価した。Mg、P、Caなど多くの元素について、象牙質に比べてエナメル質の信号強度が低くなっており、レーザーによって試料がアブレーションされ易いか否かを反映していると考えられた。エナメル質のZnには、新産線を境に明らかに分布に差があり、胎内と生後の栄養源の差を反映している可能性が高いと考えられた。なお、今回、測定対象とした検体では、90Srはほとんど検出されなかった。また、137Csは137Baと同重体干渉を起こすため、今回の質量分析計での微量分析は困難であると思われる。今後は、妥当な標準試料の選択など定量法の検討と同重体干渉の回避について工夫が必要と考えられた。
|