研究課題/領域番号 |
24790600
|
研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
内匠 正太 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (80570770)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 酸化ストレス / DNA脱メチル化 / エピジェネティクス / DNAメチル化 |
研究概要 |
近年、DNAのメチル化異常を含めたエピジェネテッィクな因子による遺伝子発現の変化が、様々な疾患と関連することが報告されている。しかし、DNAメチル化異常誘発のメカニズムについては未だ不明な点が多く、特にDNAの脱メチル化機構については十分に理解されていない。そこで本研究では、近年能動的脱メチル化に関与することが報告されたDNA脱メチル化酵素が酸化ストレスに対しどの様な発現変動を示し、発現誘導された酵素が実際にDNAの脱メチル化に関与するか否か明らかにすることを目的とする。 これまでの解析の結果、酸化ストレス剤であるパラコートをマウス肝臓由来細胞であるHepa1c1c7細胞に曝露することで、能動的脱メチル化に関与することが報告されているApobec1やAidの発現を強く誘導することが明らかになった。一方、Tet2及びTet3の発現誘導はAidやApobec1に比べ弱かったが、増加傾向が認められた。そこで、パラコート曝露によるDNAメチル化への影響を検討した結果、ゲノムワイドなDNAメチル化の指標とされるLINE1の発現がパラコート曝露により有意に増加し、LINE1のプロモーター領域のメチル化が低下傾向にあることがバイサルファイトシークエンスの結果明らかになった。以上のことから、パラコート曝露により能動的脱メチル化に関与するAid及びApobec1の発現誘導とLINE1のDNA低メチル化が同時に生ずることが明らかになった。今後、Aid及びApobec1の発現誘導が実際にDNAの低メチル化に関与するか否か検討を行う予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、目的としていた酸化ストレスによるTetの発現解析に関しては、酸化ストレス剤やNrf2シグナルを活性化すると考えられる物質を曝露し検討を行ったが、顕著なTetの発現誘導条件が得られず、当初予定していたTetの発現誘導メカニズムの解析が行えなかった。一方で、Tetファミリーと同様に能動的脱メチル化に関与することが報告されているAid及びApobec1の遺伝子発現が、酸化ストレスを持続的に生ずるパラコート曝露により顕著に増加することが明らかになった。また、ゲノムワイドなDNAメチル化の指標であるLINE1の有意な発現増加が認められ、パラコート曝露によるDNAの脱メチル化を示唆する結果が得られた。以上のことから、当初の予定とは若干異なったが、酸化ストレスによるDNA脱メチル化機構の活性化を示唆する結果がこれまでに得られている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度までの検討でパラコート曝露によりAidやApobec1が発現誘導されることが明らかになった。そこで、平成25年度は発現誘導が認められたDNA脱メチル化酵素が実際にDNAの脱メチル化に関与するか否か以下の点を中心に解析を行い、その機能を明らかにすることを目的とする。また、当初予定したTetファミリーの発現解析についても引き続き検討を行い、安定した条件が得られた場合、以下の解析を同様に行う。 1)LINE、Alu配列のメチル化解析:がんで見られるゲノム全体の低メチル化は、通常メチル化されているゲノム上に散在する反復配列であるLINEおよびAluなどのレトロトランスポゾンの繰り返し配列が脱メチル化されることが大きく関与すると考えられている。そこで、DNA脱メチル化酵素の発現がこれらの反復配列のメチル化に影響するかバイサルファイトPCR等を用い明らかにする。 2)グローバルなDNAメチル化解析:DNA脱メチル化に関与する酵素の発現を誘導する化学物質に曝露した細胞、及びDNA脱メチル化酵素を過剰発現させた細胞において、グローバルなDNAのメチル化が低下するか、LC-ESI/MSを用いた5meCの精密測定を行う。また、5meCの脱メチル化過程で生ずると考えられる5hmeCの測定をELISA法等で行い、5hmeC量への影響を検討する。 3)DNA脱メチル化酵素の標的遺伝子の同定:発現誘導が認められたDNA脱メチル化酵素をノックダウンまたは過剰発現させた細胞を用いたマイクロアレイ解析により、DNA脱メチル化酵素により発現制御される遺伝子の同定を試みる。また、同定された遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態をバイサルファイトシーケンスにより解析する。 これらの結果を基に、酸化ストレスによるDNA脱メチル化酵素の発現誘導メカニズム及びDNA脱メチル化酵素の機能について明らかにする。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度、酸化ストレス剤やNrf2シグナルを活性化する物質によるTetファミリーの活性化を試みたが、Tetファミリーの発現を強く誘導する条件が得られなかった。その為、当初予定していたTetファミリーの発現誘導メカニズムの解析に使用する予定の研究費が平成25年度に持ち越された。持ち越された研究費は、引き続きTetファミリーの発現誘導条件の検討に用いる予定である。
|