本研究では、医療現場における職業磁界ばく露として、磁気共鳴画像装置(MR装置)の操作者に着目している。MR装置のような高磁界発生装置の周囲での作業は、めまいや頭痛等の感覚機能変化が生じるが、作業者の遵守が容易な磁界ばく露低減手段の提案が求められている。 平成25年度はモーションキャプチャによるMR検査業務従事者の動作とばく露磁界の計測を実施した。本研究では、作業者の立ち入り区間(検査ベッドの右側領域)について幅70 cm×奥行170 cm×高さ180 cmのモーションキャプチャ領域を設定した。被験者に依頼する作業フローは頭部MR検査動作を設定し磁界測定も頭部のみとした。動作キャプチャ用光学マーカと磁界測定用プローブを頭部に設置したヘルメットを作製し、診療放射線技師6名に1) 通常の頭部MR検査の疑似動作と、2) 装置より30 cmの立ち入り制限区間を設定した場合の疑似動作を依頼した。その結果、頭部MR検査時の最大ばく露磁界は平均492±171 mTに対し、立ち入り制限区域ありでは364.59±136.46 mTと約25 %の低減が観察された。次に、装置近傍での検査動作について着目するため、MR装置からの距離100 cm以内の動作を解析した。その結果、移動速度、移動距離、滞在時間など作業能率に有意な変化は観察されなかった。これらの結果は発生源対策が実質不可能であり、作業者の体動制御が唯一の磁界ばく露による感覚機能変化の防止手段であるMR検査準備について、MR装置より30 cmの立ち入り禁止区間の設定は、作業者の遵守が容易な磁界ばく露低減手段となりうると考えられる。また、これらの動作解析の情報は、勾配磁界のある作業環境におけるMR検査従事者の動作を詳細に解析した最初の結果であり、2014年1月に発行された電磁界ばく露の国際ガイドラインの適合性確認に役立つものと考えられる。
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