研究課題/領域番号 |
24790602
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
西川 拓朗 鹿児島大学, 医学部・歯学部附属病院, 助教 (90535725)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ベンゼン / 発がん / 急性骨髄性白血病 / ミエロペルオキシダーゼ |
研究概要 |
ベンゼンは産業現場で広く使用されているが、骨髄障害や急性骨髄性白血病を誘発することも知られている。しかし、その発がん機構はわかっていない。 我々は、これまでの研究でベンゼン自体にも細胞毒性を認めるが非常に弱く、ベンゼン毒性の主因はベンゼン代謝物であり、そのベンゼン代謝物の一つである1,2,4-benzenetriol(BT)をヒト骨髄細胞(HL60細胞)に曝露すると、細胞が豊富に有するミエロペルオキシダーゼ(MPO)によりHOClが生じ、ハロゲン化DNAが生じることを明らかにした。 今年度の研究成果として、まずは、MPOを有さないリンパ球系の細胞であるU937細胞にBTを曝露しても細胞毒性(アポトーシス)が生じないこと、RNAiを用いてMPOをRNAレベルでノックダウンした後にBTをHL60細胞に曝露をしても、やはりアポトーシスはほぼ生じないことを確認した。この2つの追加実験の結果からも、MPOがBTの細胞毒性で大きな役割を果たしていることが示唆される。そこで、次に我々は、BTを暴露した時にHL60細胞の遺伝子発現がどのように変化をし、MPOを特異的阻害剤である4-aminobenzoic acid hydrazide (ABAH)で阻害するとどのようにHL60細胞の遺伝子発現がさらに変化するのか、マイクロアレイを用いて網羅的に解析した。BTを暴露したところ、アポトーシス、酸化ストレス、発がん、転写因子、細胞増殖シグナル関連の多数の遺伝子がいずれも発現増多を示した。そして、ABAHで前処理をすることにより、上記の遺伝子群が全て発現が抑制されていることもわかった。以上よりABAHという一つの低分子化合物でMPOを抑制するだけで、劇的にBTの細胞毒性を抑制し、BT暴露により生じる遺伝子発現の変化さえも抑えることから、ベンゼン発がんの予防手段になり得る可能性があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1,2,4-benzenetriol(BT)の細胞毒性の中心になっているのがミエロペルオキシターゼであると我々は考えているが、今年度行った実験方法でもそのことが確かめられた。また、BTを曝露したときに遺伝子発現プロファイルがどのように変化するかを、初めて報告した。そして、BTを曝露すると実に様々の発がん関連遺伝子群の発現が増多していることもわかった。そして、4-aminobenzoic acid hydrazide (ABAH)を使用し、MPOを抑制することで、その発がん関連遺伝子群の発現増多が抑えられた。このことから、ABAHがベンゼン発がんの予防手段になり得る可能性を見出した。 しかし、当初の予定であるマウスの実験がまだ行うことができておらず、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
細胞実験で4-aminobenzoic acid hydrazide (ABAH)を使用することで、1,2,4-benzenetriol(BT)曝露による遺伝子発現の変化を抑えることがわかった。 そこで、今後はマウス実験を行っていく予定である。MPO阻害剤投与群と非投与群、それぞれにベンゼンを曝露し、両軍における末梢血液中の血球数、骨髄細胞におけるCFU-GMコロニー形成能、AML発症率などを比較し、MPO阻害剤が、ベンゼンの骨髄障害やAML発症を抑えることをマウスモデルで証明していく方針である。
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次年度の研究費の使用計画 |
マウスの購入・維持費。マウス骨髄細胞の培養を行うため、細胞培養用の試薬、器具類経費を計上した。 DNAの抽出、ハロゲン化DNAの測定などのため分子生物学試薬経費を計上した。 ベンゼンや活性酸素消去剤、MPO阻害剤、緩衝液作成などのため生化学試薬経費を計上した。 試料採取や保存、試料処理のためプラスチック器具経費を計上した。
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