本研究に先立つ毛髪ミネラル調査(初期調査)の原著論文(Journal of Trace Elements in Medicine and Biology)を平易な文章でまとめたパンフレットを作成し、初期調査協力者に郵送した。1か月健診と10か月健診の双方を受診した834組には『追加調査の依頼文書』を同封して追加調査(生後6年間のアトピー性皮膚炎の罹患歴に関するアンケートと、6本程度の毛髪採取)への協力を依頼し、209組の協力を得た。追跡率が25%と低かったので、測定のリソースと統計学的検出力不足の観点から、1人の毛髪束から2つの標本を作製し、1人当たり2つの測定値を得ることとした。 毛髪中のミネラル量は、岩手医科大学サイクロトロンセンターにてproton-induced x-ray emission (PIXE分析:X線発光分光)により計測した。32種類のミネラル計測値と、アンケートデータおよび初期調査データを統合して、統計解析を行った。 まずミネラル量の分布を確認し、測定の信頼性を検討した。毛髪PIXEの測定誤差が大きいことが問題になっているが、今回は2回測定したことにより、誤差分散の推定が可能となる。測定誤差(個人内変動)の量的評価と、その影響を補正する手法(True Equivalent Sample method: TES法)を開発し、国内外の学会等で発表した。最終年度は測定誤差に関する検討が進み、誤差の特徴をもとに、32種類のミネラルを大きく5つに分類できた。 TES法を適用するためには、同一個体から2箇所の測定値を得る必要がある。そこで、追跡できた209組の母子の残余毛髪を利用して再測定を行うことを計画している。2回の測定データを用いてより精度の高い予測モデルを構築し、「毛髪ミネラルとアトピー性皮膚炎の因果関係について、より正確な推定を行う」という本研究の主目的に対する最終結論を導く。
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