研究課題/領域番号 |
24790631
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
安藤 俊太郎 公益財団法人東京都医学総合研究所, 精神行動医学研究分野, 研究員 (20616784)
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キーワード | 母乳栄養 / 精神的健康 / 前思春期 |
研究概要 |
本研究の目的は、東京都在住の9、10歳の地域代表前思春期児童をリクルートし、児および主たる養育者から母子手帳記録を含む自記式質問紙を用いてデータ収集を行い、以下の2つの研究課題を解明することであった。 1) 生後4か月間と6か月間のexclusive breastfeeding (母乳のみで育てること)では、どちらが前思春期における精神的健康によい影響を与えるのか。 2) 母乳栄養の期間と前思春期における精神的健康には、用量反応関係があるのか。 本研究では、研究期間内に約3000世帯の地域代表前思春期児童から協力を得て、データ収集を問題なく行うことができた。Exclusive breastfeedingの期間(1か月未満から6~7か月以上の5段階の順序尺度)、母乳栄養の期間(全くなしから1歳6か月以上の7段階の順序尺度)は、母子手帳記録から評価した。前思春期における精神的健康は、児童が回答したWHO-5精神的健康状態表(ウエルビーイング)およびShort Mood Feeling Questionnaire(抑うつ)を用いて評価した。 相関分析の結果、exclusive breastfeedingを生後4か月間行った群と6か月間行った群の間で、ウエルビーイングや抑うつに差はみられなかった(それぞれp=0.982、p=0.535)。一方、母乳栄養の期間と前思春期における精神的健康との間には有意な関係がみられた(それぞれp=0.043、p=0.009)。さらに、性別、月齢、世帯年収、母のIQ、妊娠中の母の喫煙、調査時点での母の抑うつを調整して重回帰分析を行った結果、母乳栄養期間の長さとウエルビーイングの間には有意な相関がみられた(β=0.04、 p=0.039)。同様の重回帰分析の結果、母乳栄養期間の長さと抑うつの間には有意な負の相関がみられた(β=-0.05、p=0.013)。 本研究の結果から、母乳栄養期間が長いほど前思春期における精神的健康度が高いことが示唆される。今後は、両者の関係の機序解明につながる研究が望まれる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リクルートには予定していた以上の時間を要したが、その点以外は順調に行えており、データの質も保たれており、計画のプレ解析を行うことができた。したがって、当初の研究計画をほぼ順調に達成していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究課題は、母乳栄養の期間の長さと前思春期における精神的健康に与える影響の機序を解明することである。母乳栄養の期間の長さが前思春期における精神的健康に与える影響には、主に2つの経路があると思われる。母乳に多く含まれる長鎖脂肪酸などの栄養が神経発達を介して影響を与える経路と、母乳を与えることで母子の愛着が深まることで影響を与える経路である。こうした経路の解明につながる生物学的および心理社会学的視点を兼ねた疫学研究を推進していくことが重要である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究協力者の都合により、研究参加者のリクルートに予定した以上の時間が必要となり、当初予定したサンプル数での解析を行えていないため。今年度予定していた学会等における発表は次年度に行う。 解析結果の学会等における発表に使用する予定である。
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