法医学上重要とされている薬毒物について,キャッチャーズ法(QuEChERS)によるヒト全血試料中から薬毒物の抽出を試みた.これまでに報告されているQuEChERS法を参考にしながら,全血試料への最適化を行った.具体的には,(1)抽出ステップでは,試料の希釈倍率やQuEChERS試薬の添加量の調整を行ない,最適と思われる値を設定した.(2)精製ステップでは,いくつかの市販の分散型固相抽出(dSPE)を用いて精製の検討を行った.その結果,酸性薬物と塩基性薬物では最適なdSPEが異なり,使い分けが必要となることがわかった.さらに質量分析におけるイオン化抑制を防ぐために、リン脂質除去用のカートリッジも有効であることもわかった。これまでの研究で、ベンゾジアゼピン系薬物とその代謝物、三・四環系薬物、フェノチアジン系薬物、抗精神病薬、β-ブロッカー類、覚せい剤関連薬物、脱法ドラッグ(トリプタミン系・カチノン系・カンナビノイド系など)、トリカブト毒、有機リン系農薬など法医学領域に関連する様々な化合物の抽出・検出が単一メソッドで可能となった。また、改良したQuEChERS法は,経験の少ない分析者でも簡単に実施でき(現在の所要時間は5分程度)、LC-MS/MSやGC-MSと組み合わせることで質の高いデータを提供できるようになった。限られた人員の中で効率的に薬毒物分析業務が遂行できるため、法医学領域だけでなく救急医療現場での応用も可能であると考えている。しかし,一部水溶性の高い薬毒物については、通常のQuEChERS法による抽出は困難であるため、今後更なる改良が必要である。
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