現存する最高レベルの検出感度を有する多種類の質量分析計を用いて、薬物摂取後の手指表面(指紋)上に分泌される極微量の薬物の検出を試みるとともに、同時に採取した体液(尿、血液等)中の薬物濃度との相関を調べることで、現時点で指紋からの薬物検出が法科学における薬物検査にどの程度応用できるか検証する。指紋からの薬物検出が可能となれば、指紋は尿や血液に代わる採取が容易な薬物検査のための生体試料になり得る。また、遺留指紋からの薬物検出は、個人の特定とともにその人物の指紋付着時の薬物使用を証明できるため、薬物関連犯罪の捜査から薬物鑑定まで幅広く応用できる。 初年度は、事件関係者から指紋を直接採取することを想定し、風邪薬等を摂取して数日経過後に指紋を採取した。尿や血液と同様に指紋からも摂取薬物やその代謝物を検出できたことから、ヒトから直接採取した指紋からの薬物検出が可能であることが示された。 昨年度は、事件現場で採取された遺留指紋からの薬物検出を想定し、喫煙者の指をガラスに圧着させ、アルミニウム粉末でその指紋を顕在化した後、粘着シートにより指紋を採取した。そのシートを溶媒に浸して抽出液を液体クロマトグラフ-質量分析計で分析するだけでタバコ成分であるニコチン及び代謝物コチニンを検出できた。また、その量は非喫煙者より有意に大きかったことから、遺留指紋からの薬物検出の有用性が示された。 本年度は、様々な状況下での遺留指紋からの薬物検出の可能性を評価するため、指紋付着物の材質、指紋の顕在化法、薬物抽出法等が薬物検出に与える影響を調べた。各種条件の違いにより、薬物の検出量が異なることが明らかとなったが、指紋の状態に応じた適切な薬物抽出法を用いることで、様々な状況下、遺留指紋から薬物を検出できることが実証された。
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