研究課題/領域番号 |
24790651
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研究機関 | 科学警察研究所 |
研究代表者 |
大沢 勇久 科学警察研究所, 法科学第三部, 主任研究官 (30370886)
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キーワード | 塩素ガス / バイオマーカー |
研究概要 |
タンパク質に包含されるチロシンの塩素化体(3-クロロチロシン及び3,5-ジクロロチロシン)の分析法を開発するため、ウシ血清アルブミン(BSA)をモデルとしてタンパク質の完全加水分解条件を検討した。強酸性条件として6Mの塩酸又はメタンスルホン酸、強アルカリ性条件として4Mの水酸化ナトリウムを用いて加熱する方法を検討した。塩酸を用いる方法は、BSA標準品から塩酸が原因と考えられるチロシンの塩素化体が検出されたため不適であると考えられた。一方、メタンスルホン酸及び水酸化ナトリウムを用いる方法では、BSA標準品からチロシンの塩素化体が検出されることはなかったため、適していると考えられた。本研究では、メタンスルホン酸を用いることとした。 塩素ガス曝露の模擬的条件として、BSAを終濃度0.01%の次亜塩素酸ナトリウムで処理した後にトリクロロ酢酸で沈殿させて回収し、メタンスルホン酸で加水分解して分析したところチロシンの塩素化体が検出された。一分程度の吸入で致死的となる極めて高濃度(約960ppm)の塩素ガスの気流を調製し、BSA水溶液にバブリングにより通気したところ、やはりチロシンの塩素化体が検出された。さらに、ヒトが塩素ガスに曝露した場合に鑑定資料となりうる生体試料を想定し、市販のヒト血漿に塩素ガスをバブリングにより通気して血漿中のタンパク質を加水分解して分析したところ、チロシンの塩素化体が検出された。これらの結果から、塩素ガスへの曝露によって生体試料に含まれるタンパク質中で塩素化チロシンが検出可能な程度生成しうること、及び本研究で用いた方法で分析することにより塩素ガス曝露のバイオマーカーとして利用しうることが強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タンパク質に包含される塩素化チロシンの分析法が確立されたこと、及び実際の塩素ガスを用いた実験により生体試料中で塩素化チロシンが十分量生成することが示されたことから、目的とする塩素曝露証明のためのバイオマーカーの開発に一定の目途が付いたものと考えられるからである。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 塩素ガスが曝露により実際に体内に吸収された場合に、それにより生成したチロシンの塩素化体がバイオマーカーとして検出されるかどうかを確認する必要が生じていると考えられることから、モデル動物への塩素ガス曝露実験を行い、生体試料中からの塩素化チロシンの検出について確認する。 (2) 塩素ガス曝露の別のバイオマーカーとなりうると考えられる不飽和結合を持つ脂質について、脂質標品(リン脂質、コレステロール)を用いて分析法を開発する。塩素ガス曝露により、脂質のクロロヒドリン化体が生ずることが予想されることから、開発した分析法によりその確認を行う。 (3) 塩素ガス曝露の証明のための鑑定資料として生体試料を用いる場合の知見として必要と考えられることから、生体試料中におけるこれらのバイオマーカー分子の安定性を確認する。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度に海外の学術集会参加を見送ったことから前年度の未使用額がある程度あり、当該年度の所要額が増えたことが理由の一つである。当該年度は支払い請求額を超えて使用したため、未使用額は縮小している。 動物実験に必要な器具、脂質の分析に必要な試薬及び器具等を購入するのに用いる予定である。また、複数の国内の学術集会に参加する予定である。
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