研究課題
膵がん神経浸潤により脊髄アストロサイトが活性化して疼痛や悪液質が発症する分子機序に、RAGE(receptor of adavanced glycation endoproducts)とそのligandによる炎症が関わるとの仮説の立証のため、本研究は立案された。具体的には、臨床検体を用いて有望なRAGE ligandを探索し、候補分子の機能および病態への関連について膵がんマウス神経浸潤モデルなどを用いた基礎実験にて確認することを予定した。58名の膵がん患者より腫瘍部および非癌部の生検を行ってmRNA発現を検討したところ、膵がん組織特異的に発現上昇するRAGE ligandはS100Pであり、非癌組織と比較して平均170倍の発現上昇を認めた。さらに、全身性炎症の指標である血中C反応性蛋白濃度(CRP)を用いて、患者をCRP高値(2.0mg/dL以上)とCRP低値の2群に分けて、炎症例の腫瘍組織で特徴的なmRNA発現上昇するRAGE ligandを検討したところ、S100A9であることがわかった(平均 2.29倍)。剖検例を用いた免疫染色で蛋白発現を検討したところ、S100Pは原発巣、神経浸潤部、転移部位を問わず膵がん細胞にび慢性に強く発現し、S100A9は腫瘍周囲の間質細胞に強く発現していた。S100A9を高発現している細胞は、CD204と共発現しており、腫瘍関連マクロファージであると判断した。S100PおよびS100A9の血中濃度の測定をELISA法にて行い、神経浸潤との関連を検討している。膵がん神経浸潤モデルにおいては、疼痛や悪液質を引き起こすCapan-1細胞に、S100PおよびS100A9の明白なmRNA発現を認めた。現在、当該vivoモデルにおけるS100PおよびS100A9の発現と機能を評価中である。
3: やや遅れている
RAGE-ligand axisにおいて、注目するligandの選定および蛋白発現の分布の確認は行えたが、RAGEの発現確認に難渋している。原因として、抗ヒトおよび抗マウスRAGE抗体の染色性が不良であることが主要な原因と考えている。また、ligandの選定法として、文書にて研究に同意を得た膵がん患者の検体を用いて手法を採用しており、患者登録の進捗に時間がかかっているため、全体として研究の進捗に遅れがでている。本研究では、癌細胞とアストロサイトもしくはシュワン細胞の相互作用について検討するとしているが、実験に必要な細胞培養機器の購入が、遅延した事務手続きのため遅れているため、現在のところ断念している。よって、vivoモデルでの確認を優先する方針に切り替えた。上記の状況のため、全体として研究の進捗が遅れていると判断した。
RAGE蛋白発現については、ウエスタンブロット法での確認で代用することも考慮しつつ、引き続き免疫染色法の改善に努める。改善する方法としては、違う一次抗体の使用、検体の固定法、発色を強化する試薬の使用を試す。臨床検体の収集については、現在は60名の患者から検体を収集したことから解析に充分な検体数を確保したと考えている。従って、平成25年度において、患者登録の状況は研究の進捗に影響を与えないと考える。In vitro 実験に必要な細胞培養機器については、平成25年6月に納品が予定されている。しかしながら、当初予定していた神経浸潤vitroモデルは平成25年度中に確立することは困難と考えられる。したがって、in vitroの実験はS100PおよびS100A9の作用を細胞別に(癌細胞・シュワン細胞・アストロサイト)検討するのみとする。In vivoは順調に進捗しており、特に推進について考慮する必要はないと考える。
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