膵がんにおいて神経浸潤は疼痛や悪液質の発症に関わる重要な予後因子である。膵癌神経浸潤により疼痛や悪液質が発症する分子機序を解明するため、ヒト膵癌細胞株を重度複合免疫不全マウス(SCIDマウス)の座骨神経に注入して作製する神経浸潤モデルマウスを確立した。神経浸潤モデルの腫瘍周囲ではマクロファージ(Mφ)関連遺伝子が高発現しており、疼痛や悪液質にMφが関与している可能性が示唆された。ヒト膵癌神経浸潤部でもMφは集積するが、MφマーカーであるCD204陽性細胞が神経浸潤部に高度集積した症例は予後不良であった。 末梢神経へのMφ集積は末梢神経損傷でよく認められる。末梢神経損傷は、接続する脊髄後根神経節(dorsal root ganglia: DRG)に影響を与え、DRGから脊髄へ刺激が伝達されて脊髄アストロサイトが活性化する。膵癌神経浸潤には神経損傷が随伴することがわかっているが、我々が確立した神経浸潤モデルマウスでも神経損傷および脊髄アストロサイト活性化を認めた。神経浸潤マウスのDRGでは、皮下腫瘍やshamマウスと比較して、RAGE(receptor of adavanced glycation endoproducts)ligandであるS100A4と、ケモカインであるchemokine (C-C motif) ligand 7のRNAが高発現していた。神経浸潤によりDRGではS100A4やCCL7が高発現し、DRGに接続する脊髄でのアストロサイト活性化に関与している可能性は高いと考えられた。現在、アストロサイトの活性化を測定するin vitro assayを構築し、S100A4およびCCL7の作用を確認中である。また、S100A4およびCCL7のDRGでの蛋白発現部位を蛍光免疫染色法で確認している。
|