間葉系幹細胞(MSC)は骨髄など多くの組織に存在し,新しい再生医療材料として注目されているが,数週間の培養を要するため,急性期疾患の治療目的に自己の間葉系幹細胞を用いることはできない.一方,出産後に通常は廃棄される卵膜にも間葉系幹細胞が存在することが最近明らかとなっている.本研究では,しばしば重篤で致死的となる急性膵炎に着目し,卵膜MSCの移植による治療効果およびその機序を明らかにして,急性膵炎の画期的な新規治療法を確立するための基盤を整えることを目的とした。 培養マクロファージに対するlipopolysaccharide (LPS)やトリプシン刺激を行ったところ、ラット卵膜MSCとの共培養におりその活性化が抑制された。また、羊膜MSCの培養上清が、膵腺房細胞に対するセルレイン刺激よる細胞傷害や、膵星細胞に対するTNF-α刺激による活性化を抑制した。 タウロコール酸を経乳頭的に逆行性に注入して作成したラット急性膵炎モデルに対し、ラット卵膜MSCを投与したところ、病態が改善した。また、dibutylin dichloride (DBTC)投与によるラット慢性膵炎モデルに対し、ヒト羊膜MSCを投与したところ、膵におけるMCP-1の発現ならびにアミラーゼの発現が抑制された。 以上の結果から、卵膜MSCは急性および慢性膵炎に対する新しい細胞治療のソースとして有用である可能性が示唆された。現在、成果を英文誌に投稿中である。
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