前年度までの検討により、膵癌細胞において炎症性シグナルであるNF kappa B経路を活性化する機能をもつマイクロRNA、miR-365が膵癌細胞の細胞生存性を増強することが明らかとなった。本年度はmiR-365が標的とする遺伝子を同定し、細胞生存性を増強する鍵となる経路を特定するために以下の検討を行った。 1)ヒト膵癌細胞株Panc-1およびAsPC-1にmiR-365前駆体を導入する前後での遺伝子発現プロファイル変化を再解析し、アポトーシス関連分子の発現変化に注目して対象遺伝子の絞り込みを行った。この解析により、ミトコンドリアからのチトクロームc放出の促進によりアポトーシスを誘導する分子であるBAXと、reactive oxygen speciesの産生増加により酸化ストレスを誘導するSHC1の発現低下を確認した。 2)miR-365導入細胞においてBAXおよびSHC1の発現が蛋白レベルで低下していることを確認した。BAXおよびSHC1のmRNAがmiR-365と相互作用しうる3’非翻訳領域配列を有していることをデータベースで確認し、ホタル由来ルシフェラーゼのコーディング領域下流に該当配列を連結したレポーターベクターの活性がmiR-365で抑制されることが判明した。以上の結果から、miR-365はBAXおよびSHC1を直接標的とすることが明らかとなった。 これらの結果は、炎症性シグナルを活性化する機能を持つmiR-365がアポトーシスに関連する分子を直接の標的とすることで膵癌細胞の生存に寄与することを示唆するものである。以上の結果については国内外の学会で報告を行った。また、論文作成のうえ投稿を行い掲載に至っている。これらの検討で得られた知見は膵癌特異的な微小環境が癌進展に寄与する新たな分子機構の一端を明らかにしたものであり、今後の治療応用が期待される。
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