研究課題
C型肝炎ウイルス(HCV)感染においてはウイルスの持続感染、加齢や宿主の遺伝子要因、外部ストレスなどの環境要因が複雑に絡んで肝発癌へ至ると考えられる。HCVによる発癌の分子メカニズムを解明するためH24年度は以下の検討を行った。(1) 臨床検体肝組織におけるSIRT経路遺伝子の発現解析。肝癌および非癌組織におけるSIRT遺伝子のmRNA発現をReal-time PCR法にて検討し、肝病態、臨床背景との関連性を検討した。肝癌部において発現量は検体間で多様であったが、SIRT1,2低下例が多くみられた。一方年齢、性別による明らかな発現量の差は認められなかった。SIRT遺伝子のタンパク発現を免疫染色にて確認した。肝癌組織では非癌組織と比べてSIRT2の発現が低下している傾向を認めた。また他のホモログでも発現変化を認めた。一方性別や年齢、B型肝炎ウイルス(HBV)の有無は発現量に影響しなかった。(2) 培養細胞株を用いた検討。in vitroにおいてHCVレプリコン発現肝癌細胞株を用いた検討を行った。SIRT遺伝子の活性化、抑制はウイルス複製に影響を与えなかった。SIRT遺伝子のウイルス複製に与える影響についてさらにHBV産生細胞株および一過性発現系を用いて検討したところ、SIRT遺伝子はHBV複製に影響しなかった。一方HCVレプリコンはベータガラクトシダーゼ活性測定法によるセネセントセル存在量に影響した。SIRTのヒストン脱アセチル化活性の影響について検討するため他のクラスのHDACについて検討を行った。クラスI,II阻害剤を用いた検討ではHBV複製肝癌細胞株におけるウイルス複製量に影響した。現在詳細な検討をすすめている。H24年度の検討においてSIRT遺伝子が肝発癌と関連することが示唆されたものの、ウイルス感染や老化との関連など詳細なメカニズムについてさらなる検討を要する。
3: やや遅れている
おおむね計画内容は遂行されているが、計画の一部に遅れが生じた。不死化細胞を用いたウイルス感染系を作成する計画であったが現在のところ細胞へのウイルス感染性が得られておらず、細胞にウイルス吸着、侵入に関与する因子が不足している可能性がある。またSIRT関連遺伝子の持続的ノックダウン細胞株を作成する計画について遺伝子の安定的な発現低下が得られていない。一方臨床検体を用いた検討については当初予定より多数例での検討が可能となった。
次年度ではSIRT遺伝子がウイルスタンパク発現や感染性に与える影響、さらに腫瘍形成能について検討を行い、また詳細な遺伝子シグナルパスウェイについて解析していく予定である。また加齢や肝硬変からの発癌メカニズムと関連して、細胞老化による影響を解析し、治療標的となりうる因子の同定を目指す。計画に遅れが生じた部分については、in vitro実験系では使用する細胞株の変更や使用するウイルスやレプリコンの変更、遺伝子活性化、抑制剤の変更などにより対応していく。
H24年度計画の一部に変更が生じたため当初予定していた細胞購入、抗体購入等を行わなかったため未使用額が生じた。これらはH25年度に購入を計画している。さらにHCV感染細胞株におけるSIRT関連遺伝子の機能解析、HCV感染による不死化肝細胞の形質へ与える影響の解析、HCVコア発現マウスを用いたin vivoでのSIRTの機能解析、肝組織臨床検体を用いたHCV感染や発癌とSIRTとの関連解析を行う。培養細胞実験にかかる費用、抗体など各種試薬、薬剤、消耗品、実験動物使用にかかる費用などを予定している。研究内容に要する設備備品はそろっており、新たな購入計画はない。
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