研究課題
能動的DNA脱メチル化反応がTET familyタンパクにより触媒されるメチル化シトシン(mC)からヒドロキシメチル化シトシン(hmC)への変換反応から始まることが報告されたが(Tahiliani M. Science 2009, Ito S. Nature 2010)、固形がんにおけるTETおよびhmCの意義については報告がなかったため、我々はまず固形がんにおけるhmCの存在プロファイルを明らかにすることから着手した。ヒトの様々な臓器由来の固形腫瘍組織(肝、脳、肺、腎、大腸、筋)においてhmCが低下していた。ドットブロット法によるゲノムDNA中hmCの定量的評価法を確立し、大腸がんと胃がんで検討をおこなったところ、各々73%, 75%の症例でhmCががん部で背景組織よりも低下しており、大腸がんでは約半数でTET1遺伝子の発現も低下していた。さらに培養細胞の検討では、がん遺伝子による細胞の悪性形質転換に伴うhmC低下を見出した。悪性形質転換におけるhmCの低下が臨床検体から培養細胞まで幅広くみられる普遍的現象であることが明らかとなり、以上の研究内容の報告(Kudo Y. Cancer Sci 2012)は、ほぼ同時期の数グループの報告と並んで、ヒト固形がんにおけるhmC低下を示した先駆け的な位置づけとして引用されることが多い。以上の成果はゲノム上の脱メチル化状態の変化と腫瘍発生の関連を示唆する結果となり、脱メチル化機構の解明が発がん機序の解明およびがん治療の端緒となる可能性を強く示す点で意義がある。上記を踏まえて最終年度はDNA脱メチル化酵素TET1の消化器がんにおける機能を解析することに主題をおき、TET1ノックダウンがん細胞株を用いた表現型解析、網羅的遺伝子発現解析、ゲノムワイドなmC, hmC分布の検討をおこない、TET1の標的遺伝子を同定した。成果は現在論文投稿中。
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