本申請研究においては、我々が独自に開発したマウス・ヒトの大腸上皮幹細胞培養技術(TMDU法)をベースとして、これら体外で培養している幹細胞への遺伝子導入技術に関する研究を遂行した。 TMDU法に限らず近年報告された各種の腸管上皮幹細胞の体外培養技術は、特定の3次元基質に腸管上皮の幹細胞を包埋して培養する3次元培養という特徴を持っている。この環境下では、腸管上皮細胞が3次元的な広がりを有する構造物(オルガノイド)を形成し、この構造物の内腔は上皮細胞によって閉じられた空間となっている。本研究においてはまず、この特徴的な立体構造が、培養腸管上皮細胞の遺伝子操作を行う際に、ウイルスなどの発現遺伝子の運搬体(ベクター)が上皮に侵入することを困難にしていることを見出した。そして上皮細胞へのベクター侵入経路が閉鎖空間に接する管腔側であると仮定し、上皮細胞の管腔側に容易にアプローチの可能な既報とは異なる新しい培養方法を確立し、この新しい培養方法を用いることで容易にウイスルベクターを用いた遺伝子導入が可能であることを見出した。この感染法は極めて簡便にかつ効率よく遺伝子導入が可能である。 このような遺伝子操作技術は、上皮における発癌メカニズムの解明や難治性ヒト腸管炎症性疾患における上皮機能の解析など、疾患の原因を解明する際に有用な技術であるのみならず、培養腸管上皮細胞を再生医療の資源として使用するAdult Stem Therapyの中でも、上皮幹細胞における疾患遺伝子を矯正して体内に戻すことを目的とした遺伝子治療開発において不可欠な基盤技術でもある。今後はウイルスベクターにとどまらず、多くのベクターにおける遺伝子操作効率や安全性を比較検証し、より現実的な基盤技術として提唱できるように改善を行う予定である。
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