研究課題/領域番号 |
24790689
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
舩坂 好平 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院助教 (70599034)
|
キーワード | GIST / KIT / ETV1 / ANKRD36BP2 |
研究概要 |
消化管間葉系腫瘍GIST(gastrointestinal stromal tumor)の病態、予後にかかわる分子メカニズムはいまだ十分解明されていない。近年GISTにおいて発現が亢進している転写因子ETV1がc-kitと共役し腫瘍形成に関与することが報告されている。(Nature,467,849-852, 2010)。GIST形成におけるこれらの遺伝子の役割を検討するため、c-kitおよびETV1によって亢進するシグナル経路および新規遺伝子を同定し、GISTの病態、悪性化の解明を行うことを目的として研究を遂行している。昨年実施したマイクロアレイ解析でc-Kit,ETV1発現による遺伝子の発現変化を網羅的に行った。しかし1遺伝子の導入により数千の遺伝子発現が2倍以上変動することが分かった。例えばc-kit変異遺伝子の強制発現では3倍以上発現が変動する遺伝子は増加273遺伝子、低下56遺伝子あったため、発現変動が大きいものを候補遺伝子とすることとし、10倍以上変動した11遺伝子を選択した。臨床検体としてGISTの術前診断のもと切除された12検体(非GIST3、低リスクGIST3、高リスク3)においてreal time PCRで候補遺伝子のmRNA発現を調べ、リスク分類結果と対比した。 結果として11遺伝子中10遺伝子が臨床検体で発現を認めたが、c-kitのようにGISTのみで発現が高い遺伝子は認めなかった。GIST 8検体において1遺伝子(ANKRD36BP2)で低リスクと高リスクで発現か完全に異なっていた。4遺伝子(CD86、HES5、HMBOX1、SMCR7L)においては完全ではないものの両リスク間で発現の違いを認めた。GISTの悪性度を推測するマーカー候補として5遺伝子を挙がった。ただし少数例の解析であるため今後多数での解析を進め、これらが臨床的に使用可能なものかを検証していく必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
既報の論文のような劇的な形質転換は認めず、シグナル解析でも変異kit遺伝子によるリン酸化亢進以外は著明な亢進シグナルは認めなかったため、H24度にマイクロアレイ解析を先行させて、そこからターゲット遺伝子を選定することとし、11遺伝子で臨床検体での発現解析を実施し臨床経過や悪性度との比較を行った。候補遺伝子として5つが絞れた点ではGISTの悪性化へ重要な遺伝子を同定する目的は一部達成できたもの、まだ解析検体数が少ないため更に解析を進めていきたい。 病態、予後にかかわる分子メカニズムを解明するためにはこの候補遺伝子がどのように関与するかも調べる必要があるが、これに関してはシグナル解析までできていない。 ほかpathway解析からもkit下流シグナルを検討中であるが画一的なシグナル変化はないため絞り込みが進んでいない。
|
今後の研究の推進方策 |
先に述べたように候補遺伝子はいくつか挙がったので臨床検体において更に解析を進めていく。 細胞株に遺伝子導入をした実験結果よりc-kitシグナルが劇的に亢進しても下流シグナルはそれほど変化せず、形態変化も乏しかった。これは細胞株のキャラクターによるものかもしれない。Kitリン酸化はリン酸化阻害剤イマチニブにより抑制され、それによりGISTも増殖抑制されることは周知の事実であることから腫瘍化するICC細胞そのものが悪性に関与する可能性も考えている。これまでの臨床解析からkit発現の低いものに悪性度の高いものが多いことを報告してきたので、ICCの分化、成熟を幹細胞マーカーで調べ、悪性度と対比することを行いたい。またGIST細胞株を入手してイマチニブを投与しそれによる遺伝子変動をみることも検討したい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
H25に予定したマイクロアレイ解析をH24に先行させて8サンプルで実施し、そこで絞り込んだ遺伝子を臨床検体でReal time解析することを行ったため、マイクロアレイ解析を行う予定の検体数が減少し未使用額が生じた。 1、これまで絞り込んだ候補遺伝子の発現解析を臨床検体でさらに進める。2、GIST細胞株をイマチニブで処理した際に変化する遺伝子変化をマイクロアレイで解析する。これにより病態を反映する遺伝子や治療のターゲットになる遺伝子を検討する。3、これまで得られた知見に基づくとc-kitやETV1の発現が低いほうが悪性化していることから幹細胞マーカーを用いたGISTの分化度の検索を行い、悪性化との関連を調べる。 これらのアプローチによりGISTの分子病態に迫りたい。
|