研究課題
本研究においては抗癌剤が肝癌幹細胞に細胞死を誘導する分子的機序および肝癌幹細胞の抗癌剤や先天免疫に対する抵抗性の機序を両面より明らかにすることにより肝癌幹細胞を標的とした新規治療法を開発することを目的としている。今回我々は転移性肝癌の抗癌剤治療時における先天免疫の関与を検討するため、転移性肝癌モデルマウスを作成し5-FUによる治療実験を行った。5-FU投与群の転移性肝癌においてはPBS投与群と比較してNK細胞活性化レセプターNKG2DのリガンドであるRae-1/H60の発現上昇が認められ、5-FU投与により先天免疫が活性化しているものと考えられた。そこで、先天免疫を活性化させることが知られているalfa-galactosylceramide (a-GalCer) と5-FUによる併用治療実験を行ったところ、a-GalCer/5-FU 併用治療群はa-GalCer単独もしくは5-FU単独治療群と比較して優位に治療効果が優れていた。今回の我々の検討により、5-FU治療時における先天免疫の活性化が明らかとなりa-GalCer/5-FU併用治療の可能性が示された。抗癌剤が肝癌細胞に細胞死を誘導する分子的機序については、ネクロプトーシス阻害剤存在下において肝癌細胞株にソラフェニブを添加し検討を行った。ネクロプトーシス阻害剤添加群においては非添加群と比較して優位に生細胞数が多く、ソラフェニブが誘導する細胞死にネクロプトーシスが関与している可能性が示唆された。ネクロプトーシス関連分子であるRIPK1の関与を検討するためsiRNAによるノックダウン実験を行ったところ、同様の結果が得られた。ネクロプトーシス阻害剤添加によるオートファジーへの影響は認められなかった。今回の我々の検討により、ソラフェニブが肝癌細胞に細胞死を誘導する機序としてネクロプトーシスの関与が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究においては抗癌剤が肝癌細胞に細胞死を誘導する分子的機序および肝癌細胞の抗癌剤や先天免疫に対する抵抗性の機序を両面より明らかにすることを目的としている。本年度の検討により先天免疫については5-FU治療時における先天免疫の活性化が明らかとなりa-GalCer/5-FU併用治療の可能性が示された。抗癌剤の細胞死誘導機序については、本年度の検討によりソラフェニブの細胞死誘導機序としてネクロプトーシスの関与が示唆された。これらの結果より研究はおおむね順調に進展しているものと考えられる。
先天免疫の検討ついては本年度明らかとなった5-FU治療時における先天免疫の活性化やa-GalCer/5-FU併用治療の効果について、各種先天免疫細胞の関与やその分子的機序について検討していく。抗癌剤が肝癌細胞に細胞死を誘導する分子的機序については本年度明らかとなったネクロプトーシスの関与の分子的機序を検討するとともに、オートファジーの関与についても検討していく予定である。またソラフェニブはRafを阻害することが知られており、MAPK-ERK経路やAkt/mTOR経路など各種シグナル伝達に与える影響についても検討していく。
研究経費は本年度同様細胞培養、生化学的実験、RI実験に関連した消耗品、動物関連費用に使用する予定である。本研究においては肝癌における細胞死誘導治療および免疫治療の開発を目的としており、様々な分子生物学的解析や免疫学的解析を必要とする。研究経費の多くはそのために必要な細胞培養や生化学的実験関連の消耗品に使用する予定である。
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