研究概要 |
大腸polyp,大腸癌などは全世界的に増加傾向でありその対策が求められる。これまで薬剤による化学予防は数多く検討されてきたが,NSAIDsが重篤な心血管イベントで頓挫したことによりまだ確立されたものはない。大腸腫瘍は肥満・高インスリン血症・脂質異常症などとの関連や,低アディポネクチン血症によるAMPKの低下が腫瘍の促進因子であるという報告があり,その病態改善が化学予防につながる可能性がある。糖尿病の治療薬として臨床応用されているメトホルミンはAMPKのagonistであり、その内服者が非内服者と比較し各種癌の発生が低いことが報告され化学予防薬の可能性が指摘されている。本研究においてメトホルミンの化学予防のメカニズムを明らかにするために,メトホルミン投与前後での正常上皮,polypの増殖・アポトーシス, AMPK-mTOR pathwayの免疫染色,遺伝子発現の解析を行った。 切除予定の大腸polypを有する患者に切除前に正常上皮,polypより生検を施行し,また直腸のACF数をカウントした。1カ月間のメトホルミン250mgの内服の後にpolyp切除を行い,初回と同様の検査を行い,前後で比較を行った。 met投与前後でACFは減少した。正常上皮ではKi-67,PCNAの低下を認めたが,polypでは変化は認めなかった。LKB-1は正常上皮に軽度発現していたが,polypでは発現しておらず,前後の変化は認めなかった。AMPKは正常上皮で前後で増加を認めたが,polypでは変化はなかった。メトホルミンは正常上皮においては増殖を抑制したが,polypにおいて増殖抑制は認めなかった。またアポトーシス誘導効果は認めなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大腸癌は日本でも生活習慣の欧米化により増加してきており、今後有効な予防法の確立が求められている。研究代表者らはこれまで抗糖尿病薬としてすでに臨床応用されているメトホルミンの薬理作用に注目し、動物実験および臨床パイロット試験で大腸癌化学予防の効果を世界で初めて実証した。これらの知見は化学発癌予防の分野で新たな展開をもたらすものと期待でき、今回の研究では大腸腺腫切除後の患者や大腸腺腫患者を対象とした新たな臨床試験を実施し、その効果の実証や遺伝子発現解析や蛋白解析を行うことによりメトホルミンの最適投与患者を明らかにし、メトホルミンの大腸癌化学予防の実現化を目指すものである。平成24年度の研究成果においては、メトホルミンの化学予防に際しては, polypではアポトーシス誘導や増殖抑制は認めなかったため,病変を切除しクリーンコロンにした後に行うことが重要と思われた。以上より、メトホルミンの化学予防の効果的な対象群が明らかとなった。
|