研究課題/領域番号 |
24790715
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
芝田 渉 横浜市立大学, 医学部, 助教 (00435819)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 胃癌 / 幹細胞 / 3次元培養 / 抗癌剤感受性 / 予後予測 |
研究概要 |
Helicobacter pyloriが胃癌の発症に深く関与している可能性が示されているが、現在もなお、本邦における胃癌罹患率・死亡率はいまだ上位であり、その発癌機序解明や有効な治療法の開発は急務である。近年の臓器幹細胞および腫瘍幹細胞研究やゲノム解読技術の進歩はめざましく、それらの知見をもとにして、従来型の遺伝子改変マウスを用いた発癌モデルなどin vivo実験に加えて、3次元胃上皮細胞培養実験を組み合わせることにより、一正常細胞が進行癌に至る過程を、腫瘍幹細胞という観点から分子レベルで明らかにし、今後の胃癌早期発見や新規治療法開発に役立てることを目的とし、本研究を開始した。 平成24年度はまずSato, Barkerらの手法(Nature 2009,2010)を参考とし、胃上皮細胞を単離、培養しin vitroにおける胃上皮細胞培養系の確立を行ってきた。まず野生型マウスから胃を採取し、EDTA溶液中で3時間振盪することにより、上皮の接着をゆるめ、物理的刺激を加えることにより胃腺上皮を分離採取し、マトリジェルを用いた3次元培養を開始した。この際、胃体部上皮細胞においてはいまだ正常幹細胞マーカーが明らかとなっていないため、胃体部、前庭部を含めた全胃上皮を使用した。ポジティブコントロールとしてLgr5陽性腸上皮細胞を用いるため、現在、Lgr5免疫染色を試験している。3次元培養系は再現性をもって確率しつつあるが、得られたin vitro胃上皮組織が、実際に正常胃上皮構成細胞である壁細胞、主細胞、ECL細胞、表層上皮細胞などに分化していることを、免疫染色により確認する点は、現在進行中である。 今後は実験計画に基づき、当施設倫理委員会審査取得済みのヒトの胃癌検体を用いて3次元培養培養を行い、腫瘍幹細胞の同定や抗がん剤感受性の検討を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度、胃上皮細胞の3次元培養に着手してきたが、既報にもとづき10種類程の試薬を培養液として調整し上皮細胞に添加し実験を開始した。濃度の微妙な違いや培養時間の条件検討を行い、最適な条件を決定するために予想以上に時間を要した。確立されている癌細胞など株化細胞と異なり、新鮮な胃組織から細胞を単離・培養するため、動物の個体差などもあり、時間を要する結果となった。 胃上皮幹細胞マーカーとして既報のLgr5に着目し、それを標識できるマウスから、上皮細胞を単離する計画を立てているが、マウスの輸入入手や繁殖に時間を要しており、幹細胞単離や3次元培養への応用には到達しておらず、これらも目的達成に遅れが生じている要素と考えられる。 3次元培養した胃上皮細胞への遺伝子導入については現在、目的とする遺伝子発現ベクターの作成を行っており遺伝子導入実験を開始しているが、十分な導入遺伝子のタンパク発現確認がとれないため、同様の実験を繰り返している状況である。 モデル動物の作成については、Helicobacter感染マウスモデルやMNU化学発癌胃癌マウスモデル、さらには胃特異的コンディショナルノックストマウスの作成を開始しており、これらについては予定通り準備を進めている。 実験計画どおりに研究を継続しているが既報どおりの結果が得られず、同様の実験を繰り返し行う必要があるため、全体として達成度はやや遅れていると考えている。今後も引き続き問題点を改善しながら研究を遂行していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
現在進行中の胃上皮3次元培養系については徐々に確立しつつあると考えている。今後は、胃上皮および胃癌の幹細胞候補となりうる既知および新規のマーカーを用いて、抗体を用いたFACS法などでその細胞分画を抽出し、より限られた細胞材料でもin vitroでの3次元胃上皮培養が可能かどうか検討していく。この研究により新規幹細胞マーカーからの胃上皮組織形成能の有無を検討し、真の胃体部幹細胞の絞り込みに努める。 更にin vitro3次元培養系で得られた上皮に、既知の癌遺伝子や発癌関連遺伝子をレトロウイルスやレンチウイルスなどを用いて遺伝子導入し、正常幹細胞の腫瘍化がみられるかin vitroで検討することで、正常幹細胞から腫瘍幹細胞、腫瘍形成の過程を明らかにしていく。 In vitro培養系と並行して平成24年度中に準備を開始している遺伝子改変マウスやHelicobacter感染胃癌モデルマウス、MNU化学発癌胃癌モデルマウスなどからも胃を採取し、初年度に確立した3次元培養を行う。これらの疾患モデルからの胃を用いて、in vitro上皮培養を行い、同一培養条件下でのオルガノイドの形成能、増殖能、発育日数や腫瘍化の有無なども検討する。腫瘍形成能の検討には、実験計画に記載したようなヌードマウス皮下移植実験も行う。 初年度に確立した3次元培養法に使用するための試薬や動物、消耗品の購入は継続して必要であり、研究費を必要とする。癌遺伝子や標識遺伝子の発現ベクター(GFPなどのマーカーやRas, c-mycなどの癌遺伝子)を取得ないしは作成するための試薬も継続して必要であり、平成25年度も研究費を使用する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の研究を推進するため、以下のごとく実験に用いる試薬や物品購入のため、研究費を使用する予定である。 胃上皮細胞3次元培養には、約10種類の試薬を培地に継続的に添加し使用するため、今年度も継続して試薬購入が必要となる。さらに今年度は、発癌関連遺伝子の胃上皮への遺伝子導入を予定しており、発現ベクターの作成や遺伝子導入に用いる試薬の購入が必要となる。 これまでは野生型マウスを用いて行ってきた検討を、遺伝子改変マウスや、Helicobacter感染モデル、MNU発癌モデルなどに応用していくため、それらマウスの維持に必要な遺伝子PCRに用いる試薬やマウス繁殖のための飼育費用、さらには初年度と同様の3次元培養を行うための各種試薬や実験器具購入のため、研究費を使用する予定である。 研究の進捗が当初の予定からやや遅れているため、研究費の繰り越しが生じる結果となっている。平成24年度は疾患モデルマウスの作成を行ってきたが、これらのマウスを解析・検討に使用するまでには最低でも約半年から1年の待機時間を要する。今年度にそれらの解析を予定していることから、研究費を繰り越さざるを得ない結果となっている。 研究計画全体を通じて、研究遂行に必要な実験器具や、細胞培養に必要な培地、消耗品、試薬の購入に継続して研究費を支出予定である。今年度は最終的に得られた研究成果について、国内外の学会等でその成果を報告・発表していき、また可能な限り論文化していく予定であり、それらを行うために発生する諸費用や旅費等についても研究費を支出していく予定である。
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