研究課題
若手研究(B)
目的 ウイルス性慢性肝疾患の肝細胞において、C末端がリン酸化したTGF-βシグナル伝達因子Smad3 (pSmad3C) を介する癌抑制シグナルが、中央部にあるリンカー部リン酸化Smad3 (pSmad3L) を介する線維化・癌化シグナルに転換するため、発癌しやすい環境が形成されると報告した 。そこで今回、原発性胆汁性肝硬変症(PBC)における線維化・発癌メカニズムについて、慢性C型肝疾患症例と比較検討した。方法 非発癌PBC 61例 (stage I: 42例、II: 11例、III: 7例、IV: 1例)、発癌症例3例と慢性C型肝炎80例 (F1: 20例、F2: 20例、F3: 20例、F4: 20例)、発癌症例20例を対象としてSmad3リン酸化抗体を用いた免疫組織染色を行い、肝細胞におけるSmad3のリン酸化状態を調べた。結果 1. 非発癌PBCおよび慢性C型肝炎のどちらもStageが進行するにつれてpSmad3Lは亢進した。しかし、どのStage においても慢性C型肝炎と比較すると非発癌PBC症例では、細胞増殖・線維化に関わるSmad3Lリン酸化程度は低く、癌抑制に関わるpSmad3C経路は保たれていた。2. PBC、C型慢性肝疾患からの発癌症例では、どの疾患においても、線維化進行症例に限られており、高Smad3Lリン酸化・低Smad3Cリン酸化群に属していた。しかし、発癌したPBC症例では、診断当時から高Smad3Lリン酸化状態を呈していた。考察 PBCでは慢性C型肝炎と比較して、発癌シグナルの亢進が進まず、癌抑制シグナルを保持しているために、肝細胞癌の発生が少ないものと考えられた。しかし、診断時から発癌シグナルが高いPBC症例では早期に肝硬変に進行し、発癌する危険性が高く慎重な経過観察が必要であると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
原発性胆汁性肝硬変症(PBC)患者の肝臓サンプルが予定どおり、入手できたことが、おおむね順調に実験が進展した要因と考えられる。また、貴重な切片を速やかに実験に使用することができたのも臨床病理部との連携がうまくいったためと考えられる。免疫組織学的検討を行い、発癌群ではpSmad3Lにおいてリン酸化が高いことが解明された。また、症例のデータ整理もうまくできている。引き続き症例を増やして検討を進めていきたい。
2013年度はこれまでの人のサンプルをもちいて、線維化のシグナルの検討を行う。これによって、Smad2のリン酸化が、線維化の予後予測マーカーとなりうるか検討したい。また、PBCマウスモデルを用いた検討を計画している。具体的には、フローサイトメトリーを用いて肝臓内に浸潤したリンパ球におけるSmadのシグナル伝達の検討を計画している。そのために、リン酸化Smad抗体を蛍光標識する必要がある。うまく、いかなかった場合には従来通りのWesternblot法にて検討する予定である。
引き続き、免疫染色やフローサイトメトリーに必要な試薬の購入、マウス購入に研究費を使用する予定である。特に、リン酸化Smad抗体の蛍光標識に一度に標識できる量が少なく、場合によっては複数回の標識が必要と考えらる。また、画像解析をスムーズに行うための画像解析装置の購入や、研究成果の発表のための学会参加、交通費にも使用したいと考えている。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件)
Hepatology Research
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