研究課題
目的 ウイルス性慢性肝疾患の肝細胞において、C末端がリン酸化したTGF-βシグナル伝達因子Smad3 (pSmad3C) を介する癌抑制シグナルが、中央部にあるリンカー部リン酸化Smad3 (pSmad3L) を介する線維化・癌化シグナルに転換するため、発癌しやすい環境が形成されると報告した 。一方Smad2のリン酸化は線維化に関わると報告した。今回、原発性胆汁性肝硬変症(PBC)における線維化・発癌メカニズムについて、慢性C型肝疾患症例と比較検討した。方法 非発癌PBC 75例 (stage I: 53例、II: 14例、III: 7例、IV: 1例)、発癌症例5例と慢性C型肝炎80例 (F1: 20例、F2: 20例、F3:20例、F4: 20例)、発癌症例20例を対象として当研究室で作成したSmad2,Smad3リン酸化抗体を用いた免疫組織染色を行い、肝細胞におけるSmad2/3のリン酸化状態を検討した。結果 1. PBCおよび慢性C型肝炎のどちらもStageが進行するにつれてSmad2L/C pSmad3Lは亢進した。Smad2L/CはStageの進行とともにリン酸化は更新し両疾患群で優位差は認めなかった。一方、どのStage においても慢性C型肝炎と比較すると非発癌PBC症例では、細胞増殖・線維化に関わるSmad3Lリン酸化程度は低く、癌抑制に関わるpSmad3C経路は保たれていた。2. PBC、C型慢性肝疾患からの発癌症例では、線維化進行症例に限られており、高Smad3Lリン酸化・低Smad3Cリン酸化群であった。発癌したPBC症例では、診断当時から高Smad3Lリン酸化状態を呈していた。考察 PBCでは慢性C型肝炎と比較して、発癌シグナルの亢進が進まず、癌抑制シグナルを保持しているために、肝細胞癌の発生が少ないものと考えられた。しかし、診断時から発癌シグナルが高いPBC症例では早期に肝硬変に進行し、発癌する危険性が高く慎重な経過観察が必要であると考えられた。一方、Smad2を介する線維化シグナルはC型肝炎、PBCで優位差は認められなかった。
2: おおむね順調に進展している
リン酸化抗体を用いた検討はおおむね順調に進行している。動物実験についてはモデル作成に6ヶ月かかるため、少し時間がかかりそうである。
人PBCの結果はほぼ予定通り集まっており論文作成を行いたい。また、マウスのモデルを使用した検討を行っていきたい。
平成25年度末に納品があったため。平成25年度末に納品があったデータマイニングサービスについては平成26年度の基金振込後に執行いたします。
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