研究実績の概要 |
目的 我々は、『ウイルス性慢性肝疾患の肝細胞において、C末端がリン酸化したTGF-βシグナル伝達因子Smad3 (pSmad3C) を介する癌抑制シグナルが、中央部にあるリンカー部リン酸化Smad3 (pSmad3L) を介する線維化・癌化シグナルに転換するため、発癌しやすい環境が形成される』と報告した (Hepatology 46: 48-57, 2007; Hepatology 49: 1203-17, 2009)。そこで今回、原発性胆汁性肝硬変症(PBC)における線維化・発癌メカニズムについて、慢性C型肝疾患症例と比較検討した。 方法 非発癌PBC 45例 (stage I: 16例、II: 13例、III: 13例、IV: 3例)、発癌症例6例と慢性C型肝炎80例 (F1: 20例、F2: 20例、F3:20例、F4: 20例)、発癌症例20例を対象としてSmad3リン酸化抗体を用いた免疫組織染色を行い、肝細胞におけるSmad3のリン酸化状態を調べた。 結果 考察 1. 非発癌PBCおよび慢性C型肝炎のどちらも病期が進行するにつれて癌化シグナルは亢進したが、どの病期においても慢性C型肝炎と比較するとPBC症例では、細胞増殖・線維化に関わるSmad3Lリン酸化程度は低く、癌抑制に関わるpSmad3C経路は保たれており肝発癌が少ないと考えられた。 2.発癌症例では、線維化進行症例に限られており、高Smad3Lリン酸化・低Smad3Cリン酸化群に属していた。しかし、発癌したPBC症例では、診断当時から高Smad3Lリン酸化状態を呈していた。診断時から発癌シグナルが高いPBC症例では早期に肝硬変に進行し、発癌する危険性が高く慎重な経過観察が必要であると考えられた。
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